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「ひ、ヒルコさん、私、あのその、ヒルコさんに聞きたいことが」
「なに」
「あの、怒らないで聞いてほしいんですけど、私が言うのも厚かましいと言いますか、怒らないでほしくって…。
でも、どうしてもって言うなら、私もいろいろ考えなきゃいけないと言うか、本当は、あでもこころの準備が」
「うるさい」
一刀両断(いっとうりょうだん)。
へどもどしつつ、袖を弱弱しく掴んで、逃げるのを阻んでみたが、上から放たれる重圧に今まさに負けそう。
超見てる、見られてる、ヒルコさんが私を見てる。それだけでとても緊張する。
「で、なに」
じろりとねめつけられた気がして、本当は目何て前髪に隠れて見えないが、だからこそ、何考えてるか雰囲気で察しなきゃいけない。「なに」と言われている当たり聞いてくれる気はあるんだろう。
先程、ヒルコさんと夜卜さんが部屋で何かお話しているのを廊下から耳をくっ付けて聞き耳を立ててみたが、単語単語しか聞き取れなくて、ふすまが突然開いたので、私は慌てて場を離れたんだ。
それにしても、夜卜さんと何を話していたんだろう。男同士の話だ!と夜卜さんはウインクして私はさっさと追い出されてしまったのだ。それに、対してヒルコさんがしぶしぶでも従ったことも謎だった。
「い、いえ!何でもないです!
聞くほどでもないような気が…」
「あっそ」
びくりと体を跳ねさせた私を一瞥して、興味無さそうに、と、と、と、と階段を静かなリズムで下りていく。
そおっと、部屋を覗くと、布団に胡坐(あぐら)をかいてベランダを眺めていた夜卜さんが私に気がついて、ニイと笑って手を振る。
「な、何はなしてたんですか」
「ひ、み、つー!男同士のは、な、しー!
……てのは嘘で、オレは御宅さんたちの敵じゃねえよってことをな。一応仲直りをした。これ以上厄介増やしちゃ、たまらねえし」
「そ、そうですか。仲良しになれたんなら、それはいいことですけども」
もじもじ人差し指をこねくり回し、部屋の片隅に突っ立つ。
本当にそれだけだけだったのだろうか。
私は、夜卜さんのさっきの話が気になって気になってしょうがない。
どうしたものか。直接聞くのも勇気がでないし。
「一凛!」
「は、はい!」
「一つ、訂正」からっとした、何だかつきものが落ちたみたいな明るい調子で、夜卜さんが言った。
「主を刺すのは、あるまじきってオレ言ったけど、ちょっと違った!
どんどん、お前の気持ちをぶつけたほうがいい。
お前の感じたままがヤツにとっての気付きになる。
いつか、一凛によって理解してくる日が来るといいな!なあに、一凛なら大丈夫。
御宅さんたちはお似合いだ」
よく、意味は分からなかったけど、夜卜さんが私にエールを送ってくれていることは分かる。「あ、ありがとうごさいます、頑張ります!」良くわからないが頑張る事を宣言して、大黒さんの洗い物の手伝いをするために部屋を出た。
取り敢えず、私は私のままでいいって言うことか。だったら私にも出来る気がした。

「ねーねーひーくん、何かへんだよお」

じゃれついてきた小福さんはぴょんぴょん跳ねる。私、いま、食器洗っている。
両手がスポンジと皿で塞がっているから防御が出来ない。
「ひーくんねえ、お店番変わりたいって。いちいちがやってたって聞いたらね、大黒に」
「は、え!?今、お店に出てるのヒルコさんなんですか」
珍しい、自分から面倒臭いことをかってでるなんて。
「だ、大丈夫なんですか」
思わず、声を荒げてしまった。
勿論、商店の方が、である。ヒルコさんのあの無愛想さで接客が出来るとは思えない。笑顔の一つも見せられないんじゃ、数少ないお客さんも逃げて行ってしまう気がする。
小福さんは後ろから顔を覗きこんで、んふふ、と楽しそうに笑っている。
「もしかして、ひーくんなりに歩み寄ろうとしてるのかもね」
「歩み寄る…?」
「おう、一凛ちゃん、ご苦労様。
こっちはもういいから、店の方、手伝ってやってくれや。ヤツだけじゃ、どうも心配でよ」
「は、はい」
洗濯物を終わらせたらしい完全に主夫さんの大黒さんは、「邪魔はするなよ」と小福さんを軽くこづいた。
「あ、夜卜さんが、アイス買ってきてって言ってました。がりがりかハーゲンが良いって」
「アイツは本当にしょうがねえな」
渋い顔をしつつも、要望を聞いてあげるのが大黒さんである。
「お互い、神器は苦労するよなあ」
私の頭をぽんと叩いて、玄関に出て行ってしまった。大黒さんは温かい人である。
小福さんから解放された私は手を拭って、横で小福さんはアイス、アイス、と良くわからないテンポで小躍りをしている。
「よかったですね、昼間はちょっと暑いですから。夜は冷えるんですけど」
「うんうん、みんなで食べようねえ、夜卜ちゃんも増えて、あたし嬉しい」
小福さんが楽しそうで何よりである。
それを温かい気持ちで眺め、店に出るためにエプロンを首に通す。
「主従でお店番だねえ」とからかってくる小福さん。
私、夜卜ちゃんと話してくるーと一旦出て行った小福さんは、またちょろっと踊り場から顔を出した。
「ねーねー、いちいち、ちゃんとひーくんにちゃんとごめんなさいした?」


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