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夜を数えて七日目、騒々しい嵐の様な人物がやってきた。

「こーふくー!いねぇのー?」

家主の名前を呼ぶ声は軽快で明るい。
私は慌ててつっかけに足先を突っ込み、勝手口からおもてにでる。
くるり、とまるで踊る様にこちらを向いたのは、黒上下のジャージを来た若者だった。
何故か、頭の何処かで分かってしまう。
この人、人間じゃない。

その人は斜に構えた格好で首に付けているよだれ掛けを引っ張っている。
その若者、顔はとても整っているのだけれども、着ているものがジャージって。ファッションが前衛的すぎてちょっと不審者っぽい。誰だろう、この人。小福さんのお知り合い…?
何にせよ、留守中のお家を任されている身の上。無視するわけにも行かない。おずおずと私は小福さん達が留守である旨(むね)を切り出すことにした。

「あ、あの、すいません、小福さんたちはお出かけしてます」

若い男の方は、中から現れた見知らぬ私に注意をやることなく、顎に手をやり考えてる格好になる。その仕草はなんだか俗っぽいなあと思った。

「ふうん、じゃ、大黒は?」

「大黒さんは、夕飯の買い出しで…」

「マジかよ、どうすっかなー」

「大黒さんは、もうすぐ帰ってくると思いますよ…」

今迄会った数少ない人達の中で、また違った性質の人だと思った。
淀(よど)みない軽い受け答え。
世慣れしていると言うか、処世が如才(にょさい)ない。
気安い雰囲気を作るのが上手い。
何でよだれかけなんかしてるんだろうか。

「てゆうかさ、お前、誰?」

質問に流れで答えていると、小首を傾け、小奇麗な顔で至極(しごく)当然の事を質問されてしまった。
お二人の名前を知ってると言う事は商店の品物目当てのお客さんではなく、名前を知っている知己(きち)だ。
小福さんはお出かけ、正確には祐介君とやらとカピパーランドへ(大黒さんには絶対言えないごめんなさい私は悪い子になってしまいました)、大黒さんは買い物に出ている。

「す、すみません、申し遅れました。
この家に厄介になっています、一凛です。
今お二人はお留守ですので、ご伝言お有りでしたら私が伝えておきます」
「うおっ、何か礼儀正しい挨拶された!
ま、いーけど、一凛?人間じゃないよな。その分だと妖でもなさそうだし。
あれ………、お前、小福の新しい神器?」

「ち、ちがいます私は、神器ですけど小福さんの…」

「そーだよなぁ、そりゃ旦那が許さないだろーしなあ。
………え、今神器っていった?!もしかして、一凛っておひとり様?!」

「い、いえ、私は」

「マジっすか!」

らっきーー!!と両拳を握って感動に打ち震えている若人。
ハイテンションで言葉が終わる前に話始めるので口を挟むいとまがなく、戸惑ってあ、とかあの、とか話の切り出し方を模索していると、すざざざざと砂ぼこりを巻き上げて私の目の前に跪(ひざまず)いた。
近付いた両目がきらっきらっしている。

「先ほどは、いやはやとんだご無礼しました、一凛さん、いや、一凛様!!」

「あの、えと」

「私、こう言うものでごさいます!」

先ほどと百八十度態度がかわった。
下っ端サラリーマンが上司におべっかつかってるような、変わり身の早さだ。
何かを慇懃(いんぎん)な動作で懐から取り出し、手渡された。なんと言いますか、ドヤ顔である。

「『デリバリーゴット夜卜』……??」

「はぁい!」

私の話をとにかく聞く気はないらしい。
渡された名刺に目を通す。デリバリー…は置いといてゴットは神、夜卜…このよくわからないテンションの人、夜卜さんと言うのか。

「て、神様!?」

「はぁい、安くて早くて安心のデリバリーゴット夜卜でごさいまぁす!いやぁ、なんて一凛さんはご幸運なお方……
この夜卜、伴音…いや前任者を解雇してしまいまして、ただいま神器を募集中でぇす!!」

手のひらを揉んで私にすり寄ってきた。
さながら、訪問販売の押し売りセールスマン。

「三食昼寝付き、週休二日、いや三日!!福利厚生もキッチリ!
まだまだ足りない?いやぁ、お嬢さん商売上手ぅ!今ならこの夜卜特性ゆるふわスカーフおつけしちゃう!
俺の神器になって頂けませんか、いや、なって下さい!!!」

終いには土下座。
頭を地面に擦り付ける夜卜さん。 プライドの糞もない。

「あの、すいません。間に合ってますので、お気持ちは嬉しいのですけど」

「虫を見るような目になってますがっ!?」

「ええ、そうですか?では、私はこれで」

「待って!?怪しい者じゃないんで!せめて話を聞いて下さい!!」

とっても、面倒くさい人に捕まってしまったようだ。

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