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味噌汁にご飯、おかず二品。
焼き魚と、日本の家庭料理を振るまわれた私たちだったが、食後はのんびり食休み、とはいかず、私の理解の超えた世界への途方もないアプローチの続きだった。

一口には説明出来ないので割愛するが、めんどくさそうに先程叩かれた頭を撫でている(大黒さんに叩かれていた)どうしても緩いお兄さんにしか見えないヒルコさんが神様。私がヒルコさんの神器、神の器らしい。

しかし、超然とヒルコさんは言ってのけた。

「言ってなかったっけ」

私を召し上げた張本人であるヒルコさんがこうなのだ。

「言ってなかったっけじゃねえっつぅの」と諦めの境地(きょうち)に至っている大黒さんは大きく溜息。

「お前が説明してやらないで、誰が自分の神器の面倒見てやるんだ、かわいそうに。
神器が惑えばお前が『刺される』事にもなるんだぞ」

「うるさい、オレの神器なんだからどう扱おうとオレの勝手」

「あの、私が聞かなかったのが悪いので」

「て、コイツも言ってるが」

「駄目だ一凛ちゃん、此奴にはキツく言ってやんねえと、」

「まあまあまあー、」と取り成してくれたのは小福さんだった。
ちなみに、小福さんはあの有名な貧乏神様らしい。貧乏神が、こんな可愛らしい女の子だったなんて。
これでも何百年も生きているらしくお年を尋ねると「な、い、しょ」らしい。

「ひーくんはゲキ強だから、神器なしでやって来れちゃったんだもんねぇ。
いろいろわからないのはしょうがないんじぁないかなぁ」

「ヒルコさんには妖に襲われた時、助けてもらいました」

「素手でやっつけちゃうなんて荒技出来るのひーくんぐらいだよぉ、妖に触っちゃったらヤスんじゃうのが普通なのに」

『ヤスム』。これも聞かない単語だ。私がまたわかんない顔するとヒルコさんが怒られちゃうんだろうな。

「なに」

「何でもないです」

私はパッと顔を背けた。
神様の中にも階級があって、ヒルコさんは強いらしい。
ひるこ、なんて名前の神様、私は聞いたことが無い。
神道に造形(ぞうけい)が深くない私は、貧乏神とか座敷童とかだったらあの有名な、と合点が行ったかもしれないけど、ひるこ、となのられた時も『神』と言う単語は一ミリもでて来なかった。
何の神様なのかしら。
どうして私を召し上げてくれたんだろう。聞きたい事がいっぱいだ。

「一凛ちゃんも良く大人しくこのちゃらんぽらんについて来る気になったな…
俺ぁ、その方が心配だぞ」

渋そうな顔でヒルコさんのお代わりをお椀につぎながら本気で心配そうにもらした大黒さんだった。まだ食べるのか。
私はただ、一緒に街や人を見て回って、隣にヒルコさんがいて、付かず離れずの待っててもらえる距離が、ただ心地よくって。
幸福だなあ、幸せだよなぁ、この旅が一生続けばいいなぁと楽観的に考えていた。
最初こそ戸惑いはあったがついて行く事に不安を感じた事はない。
無償の信頼、これも「神器」たる所以(ゆえん)だろうか。
私はまだ「神器」の役割についてあまり分かっていない。
小福さんがんーとと考えた風に他所を見て、私と目が合うと嬉しそうに抱き付いて来た。

「ねぇ、ひーくんはさぁ何しにあたしんち来たの?まさか、いちいちを見せびらかしに来たわけじゃないでしょ?」

感慨もなく、淡々と。
ヒルコさんは私を見ない。
そう言う話だった。
私たちはその為にここまで来たのだ。
その為の旅、輝いてた日々。
私の事なのに。あなたの神器だから。

「いいのよぉ、そのくらい。
料金は後払いでひーくん」

「助かる」

「お、おい、一凛ちゃんはどうするんだよ。一緒に連れてやったらいいだろう」

「コイツは連れて行けない、邪魔」

大黒さんが狼狽(うろた)えているのがわかる。この人もおんなじ神器だと言っていたので、私の懸念の想像がつくのかも知れない。
でも、私には選択肢はない。
彼の言う事に返事を、するしかないのだ。

「あの、小福さん、大黒さん。
ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

扉の外、夜がそこにある。

呼ばれたいのだろうか。

ええ、私は呼ばれたい。

闇に染まって、何もかもわからなくなって、それはとてもとても、

気持ちがいいのだろう。



ぼんやり達観していた私は、ヒルコさんが何か言いたそうな顔をしていたことに、とんと気付きはしなかった。

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