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「はじめまして、一凛です」

「あたし、エビス小福でーす!
小福って読んでねぇ」

「俺は名は黒(クロ)、器は(コク)、
呼び名は大黒だ。
ウチのかみさんの神器やってる」

女子高生とやの付く職業っぽい強面さんを相手取りそれぞれに自己紹介を受けた。
出されたお茶にそっと口を付ける。

「さっきは悪かったなぁ、取り乱したみたいでよ。何せ、久しぶりだったからな…」

大黒さんは眉を下げながら私にお招きに手間取ったことを謝罪した。強面の方は話して見れば、普通に良識(りょうしき)のある良い方で、見た目で判断してしまった自分に恥つつ慌てて首を振った。

「いえ、こちらこそ、お宅にお邪魔して、お茶まで頂いてしまって、なんだか申し訳ないです……」

私を誘って此処まで連れてきた彼はデッキに座って庭を眺めながらお茶請けに出された柏餅をもさもさ食べている。私達の会話は一応聞いている様で、「ああ」とか「そう」とか興奮気味の二人には適当に返していた。ヒルコさんにとって二人は何年来の古い付き合いと言う事で聞いていたのだが、
「こぉらあ!水蛭子(ひるこ)!テメェの問題だろうが、少しはこの子に気ぃつかってやれ」
「ひーくんはあいかわらずだねぇ」
「全く、彼奴(やつ)は昔から、ぼっとしてるっつーか、無関心というか」
忙しい言葉のキャッチボールを余儀無(よぎな)くされて、会話に付いていくのに頭が高速回転して目まぐるしい。目を白黒させ、ちんまりと座卓(ざたく)の前で正座して彼らの会話の行く先を見守る。
「大変だなぁ、お嬢さんも、えっと」
「一凛です」
「一凛ちゃん、前は何処に?」
「えっと、気が付いたらヒルコさんに、その…呼ばれて」
「へぇ、新人か。
てぇ、お前がこっちに呼んだのか、水蛭子(ひるこ)!!」
「わぁ、いちいちはひーくんがはじめてなんだねぇ!」
いちいちって私の事かな。小福さん?は人懐っこい性格している。
大黒さんは、怖い顔をしているが気さくな方で、「水蛭子、お前は、こんな純朴(じゅんぼく)そうなの垂らしこんで何企んでやがる!」「うるさい、知らねえこっちくんな」発言の端々にヒルコさん不信感がありありと有るのが分かるけど。詰め寄る大黒を鬱陶しそうにしているヒルコさん、胸ぐらを掴まれて揺すぶられても成されるがまま。大丈夫だろうか。苛立たしげなオーラが湧き上がってきているのがわかる。

「企んでるなんてそんな、とんでもないです!ヒルコさんには、右も左もわからない私に優しくしてくれました。
ヒルコさんは命の恩人です」

そういえば私は死んでいるんだったか。余り自覚症状がないので感覚を忘れる。
誤解して怒声を浴びせる大黒さんを止めようと、慌てて口を挟むと、大黒さんはぱっとヒルコさんを離して私の頭の後ろの小福さんと顔を見合わせた。ヒルコさんは憮然(ぶぜん)とパーカーのよれた首元を戻して、大柱に背を預けて居直(いなお)ってしまった。怒ってないよね。
ちなみに小福さんはいつの間にか私の背後に回って鼻歌を歌いながら髪を弄くり回していた。小福さんもその手を止めた。

「良い子じゃねぇか……!!」

「なぁにー?いちいちちょういい子ー!
大黒がひーくんをいじめてると思ったのぉ?ひーくんやるぅ」

がばあと柔らかい女の子の手が背後からぬっと伸びてきて私の首に絡み付く。
勢い余って、まだ半分ぬるまったお茶の飲みさしがのこっている湯呑みに額を殴打する所だった。
きゃっきゃとまとわり付いて飛んだり跳ねたりするので私の背中がそれに連動して揺れる揺れる。
うおおと熊が咆哮(ほうこう)するようなむせび泣きが響いたと思ったら大黒さんが目頭に腕を当てて涙を流していた。なんか大変なことになってる……!!
藁を掴む思いでヒルコさんの背中に目だけで縋るが、「うるさい」と尻を動かして背中を向けるのみで、熱(ほとぼ)りが冷めるまでしばらくかかった。

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