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「ココにアンタを預かってもらう」
漸く、この旅の理由と目的地を知った。
駅から外れた住宅街を素通りし、開けた砂利道を道なりに進む。
すると一件ポツンと立派な瓦(かわら)屋根が姿を現す。
道沿いに店を構える昔ながらの日本家屋の風情は何処か懐かしく、開け放たれた襖(ふすま)の中の畳の間の様相(ようそう)には昭和の香りがした。
何時ものひょうひょうとした調子で敷地内に我が物顔で侵入したヒルコさんはウッドデッキに乗り上げると襖の骨を掴んで無人の家に大声で叫んだ。
「大黒ーーーー!」
「なんだ、うるせえ!」
応えはすぐ近くから帰って来た。軒(のき)裏から現れた大柄の男は怒声を上げながら、まんじりとヒルコさんを上から下まで、舐めるように見つめる。
「よう、久しぶりだな大黒」
ひょいとデッキから降りた彼はのらりと挨拶をした。相手は後ろに撫でつけた髪に強面(こわもて)の厳つい顔の男。迫力のある威圧感。どうしてもそっち系の人にしか見えない。手に持っている小さなスコップと土に濡れた軍手の諸手(もろて)と黒いエプロンという似合わない格好をしているのが玉に瑕(たまにきず)であるが。
「お、お前、もしかして、水蛭子(ひるこ)か!?」
私はひゃ、とヒルコさんの体に隠れる形で成り行きをおろおろと見守った。
「なあにー?大黒ぅーお客さんーー?」
したったらずの甘えた声がして家の奥から人がまたでてきた。
今度は、可愛い女子高生。ボブヘアを内巻きにくるんと巻いて、愛嬌のある顔立ちでぱあと顔をかがやかせた。
「ああー!!ひーくんだぁ!ひーくん久しぶりー!
元気してた??」
「貧乏神、アンタも久しいな」
「もぉー!ひーくん、ちゃんと可愛く小福って呼んでよぉ!!」
「おま、一体今迄(いままで)何処に……!!」
女子高生さんは小躍りしてハイソックスの侭、庭に飛びたしてヒルコさんに抱き付いている。人懐っこい正確なようだーだが、大黒、と呼ばれた強面さんはあんぐりと口を開けて「本当に水蛭子か」と愕然(がくぜん)とした顔をして、スコップをサクッと垂直に落とした。女子高生には大歓迎でも強面さんには招かねざるお客様なようだ。
じゃあ、私はどっちだろう。
ピタッと張り付く女子高生さんにちょっとくっつきすぎではないかと文句を言いたくなった。仲が良いのか知らないが、一人疎外感を感じる。
私のテレパシーが通じたのか、女子高生はちらとこっちを向いた。「あれれぇ」とヒルコさんに夢中になっていた女子高生が口に手を当てる。
「なあに?ひーくんこのかわいい子ぉ!」
「お、お前まさか遂に人様に言えない事を……!!」
「あの…えっと…」
「名はハジメ、器はイツ、
呼称は一凛。
俺の神器」
そろっと簡素な自己紹介をされる。
「ええーーー!!ひーくんのぉ?!
うそぉ!
すごぉい、ちょうかわいいー!
よろしくね!一凛ちゃん」
女子高生さんがきゃあと完成を上げ、今度は私に抱き付いてくる。
「神器?!お前が?!嘘だろ?!」
強面さんは私と騒ぎの張本人にも相変わらずむすッとすましているヒルコさんを交互に指を指して、「明日は天変地異(てんぺんちい)だ、雹(ひょう)が降る槍(やり)が降る、それとも一世紀に一度とない大時化か?!」と良くわからないことをわめいて頭を抱えていた。
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