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三人並んで、手近な商店街まで向かう。
「壱岐さん、今日は誘ってくれて本当にありがとう!
これで、ヴィーナと夜卜との和解が叶うかも知れない‥
夢見たいだ!」
「大丈夫ですかね‥置いてきちゃって‥」
「ハラハラしますけど、大丈夫ですよ、
兆麻さん、一凛さん、今日は来てくれてありがとうございます」
「私も、ありがとう、ひよりちゃん」
ひよりちゃん挟んで向こうの兆麻さんは長年のわだかまりが解け、やっと肩の荷が降りたと言う感じで、何時もの冷静な兆麻さんにしては少しテンションが高い。
つい先日に、私は『神器切り』の汚名の正体を初めて、夜卜さん口から聞く事が出来た。長らくヒルコさんの懸念していた根拠が明らかになったのだが、夜卜さんは気にした様子なく、事実は事実だからと特に弁解もなかった。

天神さまの神器さんも桜が喜んでるとおっしゃっていた。あの桜の元に行けば、いつでも会える。
兆麻さんいわく、陸先生の行方はまだ見つかっていない。別の名前の主の元にいるだろうと言うが、その主も誰か分からない。
陸先生の事は余り考えたくない。考えないようにしている。大切にするべき主のもとで、どうして親殺しをするに至ったか、理解してしまったなら、私はまた、ヒルコさんをまた刺すんだろう。
「兆麻さん、『面』ってなんなんですか」
「「呪によって使役されている妖」これが現時点での高天原の見解だよ。
その面を創った術師がいるはずなんだ。
妖のなずけ親が」
「妖に名前を‥‥?」
「名という呪がない限り、妖を傀儡にはできないよ。
でも、そんなの自分を刺してくれと言ってるような、ものだ。
普通、ありえない……と思っていた」
ひやりと、刃を喉に差し向けられた気がした。その中でも私は平静を装う。何も考えない、
心当たりが無ければ、気付かない。そう、私はよく、ソレを知っている。穢れを齎すモノと、病める神、それは、すなわち。
「もーーーー、どっかいったきり戻ってこないんだもん
かわいい子を両手に花でぇ、なんなの、兆麻くん、合コン気分なの?」
横から陽気な声が話の途中で入ってきて、はっと我に返った。
そこには、おいてきたはずのほろ酔い気分の天神さまがいた。
オシャレなスーツに高そうな毛質のマフラーとコート。
天神さまは何時もの平安の衣の装いとは違ってイカすおじさま風で、現代の流行りに馴染んでいる。
「ご、誤解です!天神さま」と、兆麻さんは必死に弁解する。
「買い出し組です‥」
「びっくりしました‥、天神さま、
どうしたんですか、お気遣い頂かなくても‥‥‥私たちを追いかけて?」
「いやねぇ、兆麻くんが若い娘2人を連れてくからボク混ぜて貰おうと思ってさぁ。
それと、‥あの方がどうしても行くっておっしゃってね」
『あの方』。天神さまが敬意を込めた呼び方をする人は極限られる。
持っていってあげるから行ってあげなさいと、手からチューハイ缶でいっぱいのスーパーの袋のズシリとした重さがぬき去られた。
ほかん、と人の好い感じの天神さまを見た。ずっと前、天神さまに挨拶をしたとき、励ましの言葉を貰ったが、私は其れに見合った役割を果たすことが出来てるんだろうか。ヒルコさんと天神さまはどういう話をするのかな、たわいの無い雑談だったらいい。
真喩さんの主の神様。知識が正しければ、三大怨霊の神様。聞き捨て上っ面の歴史の知識の経緯から勝手な想像をするけど、私から見れば、天神さまは怨霊と言うより、優しそうなお爺さん。観察の目に天神さまは苦笑して、私は不躾に見つめすぎた事を恥じた。
「きみには難儀な話だが、責任は取らないと行けないよ」
ぽんと肩を叩かれて送り出される私。一瞬、あ、とひよりちゃんが目で私を追った。
ひよりちゃんの不安そうな表情が気になったが、「さあ、君たちは、ボクと一緒に戻ろうか」
天神さまがそれを許さなかった。


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