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ばさばさと、風で髪が翻る。
屋上から見える惨状。
神落ちして荒振る毘沙門に時間はなく、無理矢理遣われ病んでいく神器達の悲鳴。
それに向かう夜卜さん。夜卜さんの手の美しい二刀の白刃。
「あの二刀、雪音くん……でしょうか」
「夜卜を守る為に、祝となったか。
でないと毘沙門天を凌いでる、平仄(ひょうそく)が合わない」
はふり、聞いた事のない単語。
間違いないアレは雪音くんだ。
遠目でも分かる、磨き抜かれた刀身の美しさ。細身ながら毘沙門の大剣に競り勝つ強靭さ。今や軍配は夜卜勢に上がろうとしている。
「ひよりちゃんと兆麻さんは、
まだ来てないですね…大丈夫でしょうか」
「慣れない者は余分に時間を食う場所だ、彼処は」
「来い任器(じんき)!!」
ヤスんだままで、神器を遣って夜卜を追い詰める毘沙門。
「このままだと、毘沙門天がやられるな。
出る、一器」
「はい」
「やめろおお!!」
毘沙門が吼える。
堕ちてなお神器を遣い続け、振るわれる神器共々病みに侵され正気ではなかった。
「救いようがねえな、こいつは…もう…」
『切って、夜卜』
野良の囁きが脳裏に過る。
『悩むなんて、夜卜らしくない。
昔はもっと、楽だったじゃない』
『夜卜?!』雪音が夜卜の異変に気がつく。
『切っちゃえば、いいんだよ』
雪音の刀身が毘沙門の喉元を捉えた。
『夜卜さん、下がってください!!』
目の前に何者かの拳が地面に叩きつけられ、その衝撃たるや石板ごと深く地面までを抉り、波紋のように一迅の風が起こった。
現れた男は、適当に羽織を纏い、手には腕までを覆う漆黒の手甲。
下に黒い拳をつき下げたまま、
「おい、加減をしれ」
『だ、だって、久しぶりで、
それにこの姿で境界を引くってよく分からなくて…』
「張り切り過ぎだ」
「おい、っちょ、おまえ、蛭子……、神様、か!!
なんで…」
壊れた神器と共に姿を消していた最凶の神が、
突如、夜卜と毘沙門の喧嘩に割って入って来たのである。
「アンタらだけの喧嘩じゃなくなったんでな」
驚愕の表情の夜卜に蛭子神は鼻を鳴らし、帯同する武具を具合を見る様に上から指で撫でた。
魔を司る蛭子神に似合いの漆黒の武装。
先程の衝撃にも耐えうるその武具は、蛭子神の腕から下をすっぽりと覆い、禍々しい存在感を醸し出している。
「それは、もしかして一凛か」
『一凛さん?!』
今度は雪音が驚く。
夜卜も雪音も器の姿の一凛を見るのは初めてだった。
一凛は苦笑いを呈す。
『えっと、こんにちは…、夜卜さん、雪音くん。
どうしてだろう、何だか、久しぶりな気がしますね』
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