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罪を懺悔する藍巴ちゃん。元々病んでたところに呪の百杖を使った所為で更に悪化してしまったと言うが、これ程の魔、どれほど毘沙門さまを刺しただろう。破門も免れないかもしれない。何より毘沙門さまの神器であることに誇りをもっていた彼女が毘沙門さまを刺す。あの場所がそうさせるのだ、と。
常に幸であれ、正しくあれと強制し、影は見ない振りをしなければならないあの窮屈な場所。
そして、陸先生、どうして。

『いい子だねぇ、一凛ちゃん』

虚ろな中で聞いた、私を誘う声。

そそのかす、悪魔の声。

私は、何を忘れているんだろうーーー。




「あの半妖のガキを使って夜卜神を嗾(けしか)けるか、どこまで」

そうだ、今は考えに時間を取られている場合ではない。ひよりちゃんと、夜卜さん、雪音くんは無事かしら。

「さらわれたって、ひよりちゃんは無事なんですか!」

「壱岐ひよりは、無事よ。
さっき解放したわ。兆麻さんといっしょに姉様のところに向かってる」

「そう…ですか、よかった」

「とにかく、急がないと…、

姉様が、姉様が…!!夜卜に!」

私は焦燥感にとらわれた。
誤解が解けて其れで収まるなら万々歳だけど、其れで済まない、嫌な予感がする。
頭の切れる陸先生が、代替わりという一大事を演出する為に、簡単に収まる騒動を企てるとは考えにくい。
神同士の諍いの仲裁には、同等それ以上の力が必要なのだ。
何でも天がご承知している訳でもない、自体が収集する間に、もう手遅れでしたとなりかねない。今当事者であり、武神毘沙門さまに挑みかかる強者の神は多分、目の前の私の主、ヒルコさんしか居ない。
その当人はさして興味なさげに、横を過ぎていって、岩肌の縁に手を掛けて私を、一暼していう。

「一凛、行くぞ」

「ひ、ヒルコさん?どこにいくんですか」

「ココからでる。
この場所はアンタには悪影響」

「え、夜卜さんと毘沙門さまを、助けに行かないんですか」

「なんで」

さらにボロになってしまったスニーカーで、足元の砂塵をけとばした。
本気で意味がわからないと顔が言ってる。
不思議でしょうがない、何を言い出すんだと。

「これ以上、付き合う必要がどこにある。
毘沙門も自業自得なら、夜卜神もそうだ」

「で、でも、ヒルコさん」

「これ以上、アンタは関わるな」

最後のそれは、少し気弱でぶっきらぼうではあったけども、命令ではなく、お願いだった。
ヒルコさんが、何かを憂いている。私の考えの及ばない。何か。
自分にあんまり興味がないみたいだから、自己主張とかには無縁で何も言わないから。
まだ治りきっていない、体の傷とか。
元の色もわからない、私に分け与えたパーカーとか、スニーカーの底が片方抜けているとか。
何も言わないから。
ヒルコさんを悲しませることは、したくないって第一に考えたい。

「なに」

「ヒルコさん、」

「アンタ、介入するつもりか」

「……はい」

「夜卜に次は毘沙門天か。アンタはいろんなやつに尻尾を振るな」

「そんなつもりは……」

「何も出来ない癖に。
弱いアンタに一体何が出来る」

ヒルコさんの刃の様な言葉に耐えた。
歯を食いしばる。
私が、どうにか誰かの力になりたいと願ったとしても、出来ることなんてたかが知れてる。もしかしたら事態を大きくしてしまうかも知れない。
力が無いのに文不相応な願いを持つなんて傲慢。
私の概算には無意識に自分の主の善意が入っていて、他人の力を当てにして願いを叶えようとする、私の卑しい所を敏感に嗅ぎとって、侮蔑しているんだろう。
しかし、私が懇願するほど、ふうんと上機嫌に合図を打ち、それで、どうしたい、と先を促し、私からの明確な言葉を取ると、全く仕様がないとわざとらしく肩を竦める。

「いいけど。
何にも出来ないアンタの為に、オレが願いを叶えてやる。
アンタみたいなタチの悪い神器を使ってやれるのは、オレだけだろうな」




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