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何度も繰り返し。
自我が遠退くのと覚醒の満ち引きを繰り返しながら、徐々に本来の思考を取り戻していった。体感としては何日も旅でもしてきたように長い時間に思えた。私が顔を上げるとヒルコさんは「小一時間だ」と考えを先回りしてまた、再び目を閉じるよう、手のひらで視界を覆ってきた。
私は徐々に、自我を取り戻しつつあった。

頭が大分晴れてきた頃、遠くの、下界からの喧騒が私達の耳に届いた。
のっぺりした空気感からの外界からの刺激。
部屋は石壁をくり貫いて窪みを木を組んで牢としている。奥の一番光から遠い場所で微睡んでいた。外の正面が直ぐに壁に面しているので、外の様相は分からない。しかし、音と光の変化は届き、誰かの足音と人の気配にヒルコさんは身構え、私を端にやって耳を澄ませた。
忙しい足音は丁度私達の居る場所に来て止む。
一瞬の爆発音。扉が紙くずの様に吹き飛ばされ、カラカラと石くずが落ちてきた。
後ろへ飛ばされた扉だった物は真っ二つに割れている。

「あああ…、痛そう…」
「アンタまだ寝ぼけてんの」
砂ぼこりから現れた人影は、暗い外套に華奢目の身体を隠していて、誰かはすぐに判別できない。さらに警戒を強める。
武器であろう百杖を白い手で握りしめていて、フードから、鮮やかな金髪一房こぼれる。
フードの下の唇がく、ときつく結ばれた。

「一凛」

強めの口調。呼ばれた名前。
わっと、泉が湧き出るみたいに。
埋もれていた、記憶が呼び覚まされる。
白い場所。古い家。優しかった女の子。黒の神様。
心細かったこと。
白い世界で惑っていたとき、世話を焼いてくれた金髪のちょっぴり気の強い女の子のことも。
そして、あの少し寂しそうな目をした男の子の姿が脳裏に浮かぶ。

「鈴巴は、恐らく死んだ」

何で忘れていたんだろう。
もう、会えない。

一間の忘我に浚われていた間。
なぜかフード姿で現れた友人は、死角に周り混んだヒルコさんに足を後ろに掬われ、下に押さえ込まれていた。

「何のつもりだ。
どのツラ下げてここに来た」

「ひ、ヒルコさん!」

圧迫され苦しげな声を上げて、毘沙門さまの神器の藍巴ちゃんは地面にもがく。

「ヒルコさん、放して、あげてください」

「嫌だ」

「そ、その子は、毘沙門さまの神器の子ですよ」

「そんなの知ってる」

「敵じゃないんです、いろいろ心配してくれた、友達のような…」

「は、コレがアンタの友達」

友達と言う言葉が痛く癇に障ったようだ。
皮肉った口調でゆるりと下した神器を指した。

「じゃあ、アンタがその目で確かめればいい。
この友達とやらが、どんな蛮行に走ったか」

容赦なく、藍巴ちゃんの体のコートを無理矢理剥ぎ取った。
そこに現れたのは。

「藍巴ちゃん、それ、……」

かつての白くて華奢でかわいらしかった藍巴ちゃんの姿ではなかった。
首に顔に手に、ボコボコと何かが蠢いて、ギィギィと騒ぐ。
片目がぎょろりと剥いていて、その眼は不随意にあちこちに向く。
体になじんでいない、異形が皮膚下に入り込んだような、不気味な様相。
神器として不名誉な姿。藍巴ちゃんは、穢れに侵されていた。

「やめてっ、いやっ!!」

見ないで、と懇願する藍巴ちゃん。ヒルコさんが「調子に乗るなよ」
と硬く耳打ちする。奪った百杖取り出して、くるりと手の杖を柄を反し杖先を鼻先に突き付けると、ブルと震えて藍巴ちゃんは暴れるのを止めた。

「今は瀬戸際で身の安全があることを心得ろ。
今ここで化け物に変えてやってもいい」
「ヒルコさん……」
「も、申し訳…ありませ…」
「聞こえない」
「……申し訳、ありません、でした」

藍巴ちゃんは打ち震えながら、地面に頭を下げた。

「あたしはただ…、ただ姉様に認めてほしくて。それだけだったの」
「藍巴ちゃん、………」
「一凛、ごめんなさい。
あたし、一凛にも、蛭子神様にも、酷いコト、

一凛が居なくなって、主が見つかったって聞いて…、
あたしよりも大切にされて、
姉様も、一凛のことばっかり…!
あたしのことなんて、気に掛けてくれない。
陸先生に言われるままに……
でも、こんなことになるなんて思ってなかった!ホントよ、」

身体が震えている。
自分の懺悔への後悔からか、恐怖からか分からないほど、藍巴ちゃんは震えていた。

「こんなこと、言える筋合いじゃないのはわかってる、います、
どうかドウカ
蛭子神様、そのお力で、陸先生を止めて、姉様を夜卜から、守って、クダサイ」



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