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許されないことを、こいねがった。

閉じられた箱に明かりも乏しいが、夜目が効いてるのか、視界は明るかった。
ぼおとしたおぼろげな光が刺して、1メートル程先に、私を閉込める格子の足が内側に影を作っている。悪い者が清らかな光に怯えるみたいに、明るい向こう側がとても恐ろしかった。這って、奥側の陰にすっぽり埋まると、やっと心が落ち着いて、そこに膝を抱えてうずくまった。

少し離れた場所で、私の挙動をしばらく観察していた塊が、身体を少し引きずる調子やってきて、私の目の前に、私を覆い隠す大きな影になって、私を見下ろす。

この男は、影みたいだ。存在感はあるのに、明確な輪郭がつかめない。
消えてしまいたいのだ。
闇に溶けて、このまま、溶けたい。
還りたい、還りたいと、心の奥底の本能的欲求が。
満たされず、心もとなく、とても寂しい。辛い。
しかし、私は、成ることができなかった。

呼び戻されたから。

暖かな胸に包まれて背中をさすられる。
顎をつむじ辺りに乗せて軽く唇を髪に押し当てる。
落ち掛けた白衣。むき出しの右肩を軽く噛まれた。
麻酔が効いたみたいに熱で火照っていて、自分が貪られるのを遠くのどこかで感じていた。

ふにゃふにゃに体が溶けて、判断力も何もなく、体中の傷も検分されて、だぼだぼのパーカーを頭から被らされ埃を払われと、せっせと身繕いされて、差し詰め飼犬か人形状態だ。湿った地面ばっかりをぼやっと見つめるだけの人形を世話することに腐心することに何の得があるんだろう。
寝ぼけ半分でお礼を言うと、ああ、と興味なさげに返されただけ。

「もう少ししたら、出られるから」

うん?と私は首を捻る。

「小賢(こざか)しい呪だ。
ところどころ綻(ほころ)びはあるが、今のオレとアンタじゃ出られない」

ほら、と手を掲げた手を少し伸ばして古い木で組まれている牢屋の枠組みに手を触れる。
バチという音でヒルコさんの手は鋭く弾き飛ばされた。

「低級ぐらいだったら軽く消し飛ぶ」

少し焦げた匂いがして、弾かれた手をふる。

「今だけだから」

了承の意で首を振ると、腕に体重を掛けてブラ下がるみたいにくたりと力を抜いた。彼がそう言うなら、そう言うことだ。支えられながら、疲れたかと聞かれた。
そのままの体勢で手を開いたり閉じたりしてみるが痺れがなんとなしに取れない。頭も、痛い。記憶の糸を手繰り寄せようとすると、頭の奥からずうんと疼痛が襲って集中を妨げてしまう。何か、重大なことを思い出さなければと、焦燥に駆られる。しかし濁ったみたいに、よく、思い出せない。

「難しいことは、考えなくていい」

ヒルコさんが言う。ゆっくりと身体が揺れる。

「オレがアンタを守ってやる」

「………、……?」

「弱くて、何にも出来ないアンタを、

オレが守ってやる」

「だから」

「ひ、…る、こ…さん?」

「『ヒルコ』。
アンタがつけた、アンタのモノだから」















ーー一凛さま、言の葉は真実になりまする。

真実を嘘に、嘘を真実にしてしまう魔力があるんですな。

覚えておかれませ、一凛さま。

作用し、作用され。

ここに在るのですよ。



願いのように、呪いのように。



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