2

ガラス戸に映る突出した目が見返す。

遂に、その時が来たのだ。

あなたは、だあれ。と、問いかける。

曇っていた意識が更に濁りを増す。
ぼんやり写った向こう側の誰かが、私の真似をして、異形に侵されている手が顔を探った。これが、わたしなのか。
ワタシ、ナノカ。

突如、ぐんと、強い力に体が横殴りされ、尻もちをついた。
うう、と獣の唸りが、喉を震わせる。ワタシのコエ。

「大黒、だめぇ!」

「オイ、離せ小福!」

わたしは、ダアレ。

開け放たれている外を見るや否や、獣は飛び出した。裸足の両足で。
本能のまま、行かなくては成らない場所に。



『鈴巴は、恐らく死んだ』


かず、まさんがイッテたコト。

最後のヒトつ。

一瞬だけ蘇った、最後のリセい。

カズマ、さんが、


スズ、ハ くんが、死んだッテ。


「ーー??」


スズ、 ハ て、ダァレ。


びょぉ、いんに、イカなきゃ。


ヒヨ、りちゃん、が、あのオイしそうな。


まってる。



















「ーーーーー、

ーー。ーーーー」




「クソッタレ、相当障(さわ)られてやがる」



「ーー、」



「…オイ、」




「ヤ、ーー?」




夜卜は、ボトルの蓋を捻り、ボトル一杯の清めの水を惜しげなく注いだ。

「ツメ、」

「辛抱しろ。
よくもまあ、こんなに掻き集めたもんだ。
ここ一帯だけ、空気が濁ってる。

現世に影響が出るのも時間の問題だな…、さっさとトンズラしねぇと痴女でなくても嗅ぎつけられたらヤバい」

横に四肢を投げ出す全体にどぼどぼと振りまく。薄い衣服がしとどに水分を吸って肌に張り付く。2本目に空にした時、覗き込んで頬を軽く叩いた。

「どうだ。
取り敢えず、応急処置だ。
危急だったんで、黙って掻っ払って来ちまったから後で一緒に謝れよな」

「あ、夜、とさ」

夜卜は哀れなそのモノをみる。憐憫と憐れみをもって。どんなに清めようが、中から穢れてしまった魂は真っ新には戻らない。
喰われたか取り込まれたかの箇所は魂の形に拘らなければ、歪な魂になっても生き長らえることは出来るが、これはもう完全に身魂まで侵されてしまっている。魔を自ら取り込んだ形跡がある。寧ろ自ら、集めて、喰らった、のだろう。
この結末を予期していなかった水蛭子ではなかろう。予兆はあったし、ちょっとやそっとでは落ちない頑丈な神が、変調を来していたのだ。主を刺すことは罪だ。穢れをもって、主を侵すなど以ての外。良くて破門、妖に転変した神器は主が責任を持ち滅するのが通例。
雪音は禊でどうにか妖に転じるのは免れたが、これはーーー。


夜卜はソレを肩に担ぎ上げる。
しゅうしゅうと穢れが触れた肌から染みてくる。焼ける様な痛みに夜卜は耐えた。
のろのろと夜卜の姿は影に紛れて消えていった。

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