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許せない。

許されていい筈ない。
許してなるものか。
怒りがコントロールを失い、全てをさらっていってしまった。
一過性に沸騰した怒りを相手に投げ付け、結果主の品位を貶めた。

突然、自分の門下へ下らないかと言う毘沙門さまの誘いは勿論お断りした。不穏な空気になったのは、その後。
私に追い出される形で客人達は去り、私の主は吐きすてる様に、
「アンタに庇(かば)って欲しいなんて、
いってないから」
「おい、水蛭子、そんな言い方……一凛ちゃん!」
久しぶりに悲しくて泣いた。普段と変わらないヒルコさんの言葉でも胸に突き刺さる。
自分が、自分では無いような感覚、なんて説明したところで、言い訳がましい。自分が恥ずかしかった。私の心の奥底まで見透かす私の主。あの怒りは、まぎれもなく自分の為の物だったこと。
塞ぐことが多くなり、頭痛と睡眠不足が悪化した。仕事もそっちのけで縁側でぼっとして1日が終わってしまう事もある。
奇妙な夢を時々見た。
布団の中で苦しむ私。
ゆらりと揺れる人影が窓の手間でただ立っている。
まるで、観察する様に、じいっと。
暗闇の中、私が呻いても、相手の表情は変化している気配ない。暗くぽっかり空いた双眼。
影が私の方に近付いた。そう思ったら、鳥の囀りが朝を知らせてきた。唯の夢。

「俺は、ひよりの、思い出にすら、なれないんだ…っ」

ある日、雪音くんが辛そうな顔して帰ってきた。思いの吐露を夜卜さんと一緒に聞き、この時も悩みの共感や心配の心ではなく、否な感情が先行する。泣くほど忘れられたく無いと思われるひよりちゃんと言う存在。
「泣く必要なんてないですよ。
ひよりちゃんがお二人の事を大切に思ってる事実は変わらないんですから、ね?」
雪音くんはうん、と涙を拭いて頷いた。



「いちいち、ねぇ、いつもこの時間に起きてるの?」

「小福さん…」

「音がしてたから、誰だろうって、目が覚めちゃった」

深夜夜半過ぎ。パジャマ姿の小福さんは近付いてくる。ぎゅっと薬を握り締めるが、めざとく目を配られてしまい。今さら誤魔化しも何もないことを悟った。

「あのね、神器と神さまのことは干渉はご法度なんだよ。
これは、ひーくんといちいちの問題だもんね。」

「そんなことっ」

「でも、心配はしていいよね、ひーくんって何にも言ってくれないし。
いちいちをあたしの所に預けたのはひーくんなんだから」

「小福さん…」

「ねぇ、…聞いてもいい?
何時から?何時からなの?
ひーくんはこのこと知ってるの、いちいち」

小福さんが詰め寄る。
いつからと言う質問には。

「さ、最初から……」

自然な答えだ。自分と言う認識が生まれた時から。
名前を呼ばれて、主の顔を見たその時に。続いている、元々病みやすい体質だった。時々意識がとんだり、
記憶が曖昧だったりした。元々あった感覚が、振れ幅が大きくなっただけ。

「っ…、いちいち!!」

聞いた瞬間に小福さんの目が潤み、いつの間にか抱き着かれていた。コップがキッチンマットに落下して、飛沫がくるぶしに跳ぶ。

「いちいち、約束して。
いなくなっちゃ、ダメだから〜、ぜったい、ぜったい。ヤダ、ぜーーったいダメだから」

「小福さん……」

泣きじゃくる小福さんに私も泣きそうになってしまった。こんなに思われていたのか、と。

「ひーくんを許してあげてねぇ、
誤解しないで、本当はね、本当の本当はね、ただ戸惑ってるだけだと思うの。
ひーくんはね。神さまたちにはよく思われてなくて、神器もいなくて、ずっと寂しい神様だったんだよ、」

「小福さん、泣かないでください。分かってます。だって」

沢山知っている。楽しそうに笑うのとか、拗ねてる時とか、からかってる時、我儘、いっぱい。

「私は、ヒルコさんの神器です」


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