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驚かせちゃった?と苦笑いを浮かべた桜子は氷嚢を頬に当て、スツールに大人しく座っている。
赤みを帯びている目に腫れた頬。逡巡する所を引きずって医療班まで引っ張ってきた。真剣な顔で譲らないアレンは、桜子のツボを刺激するらしく、わかりました、わかりましたと満更でもない顔でアレンのゆうなりになった。
序でに任務中に付けた傷の消毒をしてもらい、一旦落ち着くと、出し抜けに、アレンさんって、いい人ですね、と、また弱った顔で何やら言い出した。困惑するアレンに、
「普通、愁嘆場に居合わせたら見て見ぬ振りをするものじゃないですか。当人達の問題だから、て。
面倒臭い事には関わりたくないって思うんじゃない?」
「僕は、女性が手をあげられていて看過出来る程人でなしじゃありませんよ」
「なるほど、アレンさんは紳士なのですね」
のほお、と感嘆し、出されたお茶を飲んで、イチ、と口の傷にしみたか涙目になる。趣旨からずれた会話。その様子は至って平素。他人に醜態を晒した事に対しては頓着なし、発言や表情にぎこちなさ硬さはない。
肩透かしを食らった気分だった。何の気しない本人の態度なら、実際そこまで深刻な事でもなかったのかも。いやいや、あの剣呑な場が一大事ではないものか。結局アレンはその場に居合わせただけで状況も経緯も何一つ知らない。結果として、残されたのが頬を真っ赤に腫らした女の子の泣き顔。そもそも桜子の事も知り合って昨日今日だ。判断出来かねる。
何でどうしてがぐるぐる回り非常に気になる。結局好奇心に負けて、アレンは意を決した。
「あの、何があったのか聞いてもいいですか」
アレンの恐る恐る、桜子の顔色を伺いつつの言い方に桜子は一瞬きょとんとした。
「もしかして、聞いちゃいけないかと思って気を使ってくれてたの?
別にいいのに。何時ものことですよ、確かに公衆の面前ではまずかったかもしれないですけど」
手を上げるのが何時もなのか。それが普通になっているのか。エクソシストとして身体能力が充実していても反撃の出来ない状況は存在する。
でも、アレンに対する桜子の答えは
だから、アレンさんにはご迷惑おかけしました。しらじらと頭を下げるのみ。根本の質問には答えてない。答えたくないんだと思った。
アレンさんには教えちゃおうかな、桜子はとっておきのその言葉を胸の内の本心をそっとアレンに囁いた。思いを胸に抱くように、陶酔の心底幸福そうな微笑みで、
「誤解しないで下さいね。彼は私が聞き分けがないから、私の為を思って心を鬼にして叱ってくれてるんです。多分今も後悔なんかしちゃってるのだと思うんです。本当に、すごく優しい人なんです。これは」
口角の傷のある方を指差して、
「私を思ってくれてる証拠なの。この痛みが、私を思ってくれてるって言う実感なんです。
だから、心配しないで」
心配しないで、が別の意味にアレンは聞こえた。だから、放っておいて。何も聞かないで、口を挟まないで。
アレンは閉口する。聞きたいことは山程あったが、本人が望まない以上、強制したところで無駄だと思った。
「わかりました。でも、何か僕に出来る事があれば、いつでも言って下さいね!力になりますから」
儚い笑みが余りにも艶やかで、この落差に熱を上げてしまう気持ちもわかるぞと、アレンは顔が熱くなった気がした。



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