出会い1

ふわふわしていて、陽だまりのような笑顔を持つ人だ。
初めての邂逅はそう、ファインダーの漕ぐゴンドラが埠頭を離れて、目的地に漕ぎ出した不安定な水面の上。
朝霧がフードを濡らす。同乗していたもう一人がそれを肩に落とした。
「アレン・ウォーカーさんですね。私、エクソシストの桜子・烏丸と申します。
この度、貴方のサポート役として同行させて頂くことになりました。よろしくお願いします」
黒衣に胸に輝くローズクロス。零れ落ちたのは、黒髪だった。サイドを流れる、背中に付くだろう長い長い黒髪。
ニッコリと桜子と名乗った女の子は笑う。年はアレンより年かさの大体十代後半ぐらいの年齢だろうか。可愛らしい人だなと思った。レザーグローブの右手をしっかりと握りかえす。
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
アレンと桜子の初対面のぎこちなさは直ぐに解消した。予め渡された資料とファインダーから現地についての予備知識を確認し打ち合わせを行った後は、目的地までの道中は、お互いの事を知るために時間を使った。作戦の為に説明された桜子のイノセンスは短刀で、見せてくれた短刀の黒塗りの鞘を抜いた刃渡りは黒曜石を思わせる黒だった。

空を狭窄させる木立は空間認識能力を麻痺させる。目的地は愚か、自分の現在地も分からない。
アレンは草木に分け入りながら取りあえず進行方向に足を進め続けた。
手分けして行動した方が効率的だろうと提案したのは桜子で、三人とも各自別行動を取っている。しかし、この薄暗い山林に入った辺りから無線は通じなくなり、迷いに迷い、途方に暮れているわけだ。
更に幾時間が経ち、アレンが遂に近くの切り株に座り込んでしまった時、
「わあああああ」
劈くような男の悲鳴が閉鎖された空間を切り裂く。
アレンはその悲鳴を必死になって追う。開けた場所に出た思ったら、そこは惨状が広がっていた。
静謐な湖畔がアレンを出迎え、危うく水に足を取られかけた。その、あたり一帯だけが、基調が茶色に様変わりしていたのである。梢が下方を向き、露草が萎びたように縮み地面を露出していた。
「桜子さん!いったい何が」
腐ったようなすえた臭いが鼻腔を刺激する。その中心に認めたサクラコ。
「私の所為だ」
アレンが駆け寄ると、顔を上げる桜子。
「私がもっと注意していれば…、私がもっと早く気がついていたら…」
ごめんなさい、と白い団服に縋って自戒する。その後悔の顔と残された持ち主の居ない団服、根こそぎなぎ倒された古木や地面のえぐられた跡。何があったのか想像に難しくない。
「AKUMAに殺させはしなかったのに」
自分たちをエクソシスト様と慕っていたファインダーは死んだのだ。桜子に微笑みかけられて頬を染めて、しどろもどろになっていた気の良い青年は命を落とした。多分、桜子の目の前で。何と声を掛けていいかわからない。やるせない気持ちがこみ上げ、くっと唇を噛む。
「……戻りましょう。村までありれば電話があるはずです、そこでコムイさんの支持を仰ぎましょう」
アレンが華奢な肩を撫でて言い聞かせる。
「アレンさん、その時間はないみたい」
桜子は鞘から抜いた短刀を懐に抱えるように構えた。一陣の黒が真っ直ぐに目の前のAKUMAに向かって行った。


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