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暫くそうしていた後、のろのろとベッドの方に体を移動する。
正常な思考が戻ってきて、散乱した書物を整理しようかととりあえずの考えに体が傾き掛ける。
ドアをノックする音がした。

「ラビさん」

ドア越しで篭っているが、その声は桜子だ。

「ラビさん、開けて下さい」

優しげな声色だが強制力があった。
ラビの深層本能が告げている。今、その言葉に従ってはならない、拒絶するべきだと。

しかし、ラビは誘われる様にドアの前まで歩いて行き、鍵を開け、自ずから誘惑者を招き入れたのだ。

「ラビさん、会いたかった」

佇立するラビの眼帯を怜悧な指先が上からそっとなぞると手のひらが視界から光を奪う。桜子、と口にする前にラビの意識は遠ざかって行った。







次に、医務室でラビは目を覚ました。

「お気付きになられましたか?
部屋で倒れられていたんですよ。
栄養失調と睡眠不足です。聞けば、ここの所碌な食事を取られていなかったようですけど、どうしてここまで放っておいたんです?」

ご自愛して下さいと誰かのきつく戒める言葉をぼんやりした頭で聞き流すラビ。
真っ白な天井同様にラビの思考もクリアになっていた。眠りから後を引く感じもなく、澄み渡っている。

「桜子様が部屋でエクソシスト様を、見付け下さったんです。
大変心配して居られました」

「桜子は?」

「先日、イノセンスの捜索に発たれました」


ああ、とラビは失意で嘆息した。

『やっぱり、ラビさんも』

純然たる恐怖がラビの全身を支配している。
恐ろしい深淵を垣間見かながら逃げて来た後。二度と御免だ。気が付きたくない関わりたくない。

「そっか、疲れてたんかなオレ。
よくわかんねぇけど、桜子には礼を言っとかなきゃな。
桜子は心配症だから、早く連絡とらねぇと気を揉んでるかもしんねえさ」

微かな恐怖だけがラビの胸に残った。


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