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桜子とは気まずい侭、数日が過ぎた。人間関係は円滑に済ませたいラビは不安要素は直ぐに解消しておくこと然るべきだが、まだフォロー出来ていない。生憎それどころではなかったのだ。体調が思わしくなく、頭が判然としない。それもその筈で、ここの所熟睡出来ない夜が続いていた。
布団に丸まって見ても浅い眠りから、強制覚醒の繰り返し。
げっそりと頬が削げてしまっていた。
原因はわからない。とにかく、頭に霞が掛かった様に、思考に判断力が伴わない。
唯唯、無為に思考に耽る時間が続き、始終は気の無い返事ばかり。
おかしいなとは思うが、どうして良いか分からない。自分と言う人格が徐々溶けて無くなってしまう感覚ーーーーーー。



「何を惚けている」

さいさん名前を連呼されて、うつ伏せていた顔をやっと組んだ諸手から上げた。

「ジジイ……何かようさ」

気の抜けたラビの反応にブックマンは眉根を厳しい顔で寄せる。渋面で見下し思案するブックマンにも興味が湧かない。皺がれた手が顎髭をゆっくりと梳いている。
ラビが心を惹かれるのは、あの自分を誘うような、

『あなたは、何者?』

自分の中で繰り返した自問自答をうわ言の様に口に出す。

「ジジイ、オレ、可笑しいんかな。
どうでもいいんさ、何もかも。
そう思ったらもう………

そうさ、そもそも、オレって誰だっけ……?」

その時、強烈な蹴りが惚けるラビの頬を抉り、無抵抗な肢体が其の儘吹っ飛ぶ。
部屋の本棚に頭から突っ込んだ。崩れる書物に埋れ、頭を振って体を起こす。理不尽な暴力にラビは反射的に叫ぶ。

「何するんさ、こんのクソジジイ!!!」


「お前の名前はラビで、ワシの弟子だ、馬鹿者!!」

ブックマンの怒号にハッとラビは己を見る。

「やっと目が覚めたか。この未熟者め、全く世話の焼ける」

優美な漢服をはたくとびょこんと卓から下に着地し、部屋を後にする。

「何処に行くんさ」

「ちと、用事を思い出してな。お前はここに残っておれ」

部屋に残されたラビは暫し呆然とここ何日の事を考えていた。


「オレ、一体何してたんさ」

両手を何度も開閉して感覚の実感に乖離が無い事を確認した。
脳の中に反響する繰言に答えると、思考が濁りを帯びていった。然も、自分と何かが混ざり合い膨大な何かに成るに従い、ぬるま湯に浸かる様なけだるさの快感に溺れて行き。

「何だったんさ」

ぶるりと体を震わせる。薄気味悪い感覚に悪寒を覚え、必死に自身を抱き締めた。


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