その甘さに/成御
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※小学生時代妄想







家のチャイムが鳴って、玄関を開けてみたらそこに御剣が居た。
どうしたの?と問いかけるといきなり泣き出した。
声を上げて泣くものだから僕はとても困った。
とりあえず中に入ってもらって落ち着かせることにした。



「なあ御剣ー、泣き止めよ。何で泣いてるんだよ?」

冷蔵庫から麦茶を出しながら、泣いてばかりいる子猫ちゃんに聞く。

「なぁ…」

これじゃ僕がいじめて泣かせたみたいだ。
幸い母親は買い物に出かけていていなかったから怒られることはない。
が、
まだ泣きやんでくれないクラスメートになんて声をかければよいか、
悩んだ末

「御剣…麦茶」

と言ってコップを差し出した。
我ながら気の利いていない選択だと思った。
それでも御剣はコクリと頷きコップを受け取ってくれた。
麦茶を飲んで落ち着いたのか、声を上げて泣くことはなくなった。
だが双方の大きいグレーの目からは涙が溢れている。
このあとどうしようと考え、とりあえず御剣のコップに無くなった分麦茶を足した。

「御剣…?」

おそるおそる声を掛けてみる。

「っ…なんっ…だね……?」

しゃっくりあげながら返事をしてくれた。
涙を手で拭うのは限界そうだったからティッシュを渡した。

「ん……ありがとう……」

幾分か落ち着いてきたらしく、涙はまだ流れていたが呼吸は穏やかになった。

「それで、どうしたんだよ?」

「ん…」

今度はちゃんと答えてくれそうだ。

「成歩堂、僕のこと嫌いか?」
「え!?…き、嫌いじゃないよ」

僕の返答に満足したのか少し口元が緩んだ。
しかしそれも一瞬で、すぐに次の質問をしてきた。

「じゃあ……僕のこと、好きか?」
「え、うん。好きだよ。」

日本語とは不便なもので、好きと言う意味を人はいつも取り違うのである。

「そうか……よかった……」

今度こそ満足したらしく、ニコッと微笑んだ。

「ごめん、成歩堂。いきなりこんなことをしてしまって。」
「大丈夫だよ。そりゃ最初は驚いたけど……。
それで、なんで泣いていたの?」

おそらく僕は無神経、という区分に分けられる。
それを知っておいてもらおう。

「いや、……もういいんだ。解決したから……」
「え?え……うん?」

御剣の、触れて欲しくない、という思いは僕には伝わらなかった。

「………どうして泣いていたの……?」

だから同じことを言ってしまった。

「だから……なんでもないんだよ。もういいんだ。」
「もういいって……だって僕まだわかってないよ、君が泣いてた理由」

そして諦めも悪い。
これは後にとても役に立つのだが、今はとても邪魔にしかならない。

「〜〜〜!だからっ………。成歩堂、」
「何?」
「僕は、君のことで悩んでいたのだ。」
「えぇ!?僕のことで?何?」
「それ以上教える気はない。……時がきたら教えよう……。」

そのとき御剣はとても淋しそうな顔をした。

「御剣…」

それ以上言えなかった。




今思えば、あの時もっとしつこくきいていれば今の状況が何か変わっていたかもしれない。
でも、それはもう、どうあがいても変えることは出来ないのだ。


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