「蛆虫がざわざわしてる」
昨日こいつはそう言った。俺にはなにも見えなかった。今目の前で頭や腕を掻きむしる後輩の姿をぼんやりと眺めている。わあわあ一人で騒いでいるけど気にしない。どうやら幻覚を見ているようだ。助けようとは思わない。なぜならこいつだって俺に助けられたくはないだろうし、俺もこんな奴に手を貸すくらいなら死んだ方がマシだ。
うあっああ死ねああ消えろ消えろ消えろあああいあああああああひぃああああ
顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣き叫んで腕を床に叩きつけて、全く忙しい奴だ。先輩の部屋を散らかすなんて最悪な後輩だな。こんなんじゃお前社会出れないよ。人を見る目も、強い意思もなにもない。駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。狩屋は腕に蔓延る蛆虫を殺す為か、鞄からカッターを取り出した。俺は狩屋の左腕を力強く掴んだ。
「あ゛…きり、の、せんぱ、い…もう」
口の端から涎が垂れているのもお構い無し。本当に駄目だなこいつまじ人生終わり。
「狩屋、苦しいか?」
薄く笑った俺の表情を見た狩屋は、目を最大まで見開いてそのまま大粒の涙をぼろぼろと溢した。返答を待つまでもない、苦しいのだろう、死にたいのだろう。じゃなきゃ俺の腕にカッターの刃をたてないだろう。痛みは俺にだってわかるよ、人間だもの。なんちゃって。だから刃をたてるなよ。そう言ってカッターを持つ右手も掴んだ。さっき刃をたてられた左腕から血が少しだけ出ていた。なんだかんだ狩屋は優しいから、力を加えなかったのだろう。ありがとう、狩屋。
「このまま死にたいよな、そうだよな」
あああ、とかうー、とか言いながら首を縦に振るこいつはもう死んでるようなものだろう。本人は気づいてないけど。可哀想な狩屋、可哀想な後輩。暫くすると大人しくなったので両腕を解放すると、また頭や腕を掻いたり腕を床に叩きつけたりし始めた。俺はそれを放置して机の上にある袋を漁った。その中から注射器を取り出すと、未だ暴れている狩屋の腕を掴みゆっくりと注射を打ってあげる。ほら、また楽になれるぞ、よかったな。今日は気分がいいので、泣き止まない後輩をあやすかのように抱き締めてあげた。



20120212






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