細く白い指先は、決して柔らかくなどない。 軽い見た目に反し重量感のあるナイフを振り回すその指は、無数の細かい傷とともに節くれだっていて、この男の内に秘める青い炎のような一面を垣間見る。 「……シズちゃん、しゃぶんないで」 それまでひとの好きなようにさせていた男が、呆れたように溜息を吐く。 「別に、減るもんじゃねぇだろ」 その長い指先を壊さないように丹念に舐めるのが、とても好きだった。 唯一、いつも嘘くさい笑みに隠された本質が剥き出しになっている部分だから。 「ふやけるだろ」 「んなことにはなんねぇから、安心しろ」 指先と爪の間をくすぐり、関節を齧る。 指の又に溜まる唾液が、掌を伝い落ちる。 それにほんの少しだけ、綺麗な顔が歪んだ。 「……シズちゃん」 名を呼ぶだけなら応えない。 親指から人差し指、中指と丹念に嬲っていけば、ゆっくりと手首から剥がれ落ちていく。 開け放たれた窓。蝉時雨に水音が混じる、静かな部屋の中。 「シズちゃん……」 濡れた指先が、人の髪を梳いた。 2012/05/03 ← |