中略 高校最後の夏休み。 受験をひかえた三年生は、通常9月までの休みを早めて、明日から授業を始めると連絡がきたのが昨日。 急だとは思いつつも、理由が最もなうえに家の電話に掛かっきて、しかもそれが先生だったら信じるだろ。 それで、暑い中学校まで来てみたら校門は閉まっているし、生徒も一人も 見当たらない。 どういうことだと首を捻っていると、大笑いしながら現れた臨也にやっと騙されたと気付く。 「あのさー知ってる? 今ってね盆休みっていって、世の中共通の休みなんだよ。ちょっと考えればわかることじゃん。シズちゃんて本当馬鹿。ちなみにねーあの電話の声、俺。どうどう? 俺の声真似。結構似てたでしょ」 「……黙れ黙れ黙れ。その口閉じろ。閉じねぇなら俺が一生話せなくしてやる」 素早く間合いを詰めて、拳を繰り出す。しかしそれは臨也ではなく、後ろの壁に激突した。 「ちょこまかちょこまかと、うぜぇ!」 「ハハ、恐い恐い」 再度、標識を抜き投げつけるが臨也はするりとかわし、そのまま走り去る。 「待ちやがれ!いーざーやぁぁぁ!」 炎天下での、鬼ごっこが始まった。 中略 「ねぇ、シズちゃん。最後に写真撮らない?」 男は制服のポケットから、黒い携帯を取り出した。 「……嫌だ。なんで手前となんかと」 「そう言わないでさ。記念だよ。記念」 不機嫌になる自分とは対照に男は楽しげに笑う。 なぜ互いに厭う相手と写真を撮りたがるのか、理解に苦しむ。 「手前は……嫌じゃねぇのかよ」 「ん?別に。シズちゃんが思ってるほどじゃないよ」 ほら、撮るよ、とカメラ部分をこちらに向けて携帯をかざす。 本来、一緒に写真を撮るなどありえないことだ。なのに、こうして肩が触れ合うほどの距離を許してしまうのは、もう最後だと思うからだろうか。 渋々といった様子で、カメラに視線を向けた。 「笑ってね」 こんな感じで12ヶ月喧嘩したり、しなかったりを繰り返してます。 |