「手は使わないでね」
何度も染色してすっかり痛んでしまった静雄の髪を梳くと、彼は上目で己を一瞥し、態とらしく溜息を吐いた。
布越しに伝わる熱い空気が内股を掠めこそばゆい。
「面倒くせぇ奴」
艶然と笑い毒突く唇。あーあ、たまには『はい。ご主人様』とか可愛く言って欲しいもんだ。
もっとも実際やられたところで気持悪いだけで、自分は彼のこういう態度を気に入ってるだから、どうしようもない。

静雄は象牙色のエナメルでスラックスに噛み付くと、首を前後左右に動かし器用にホックを外す。次いで、鈍色に光るジッパーを口内に含んだ。ジジッと物々しい音を立て、殊更ゆっくり下ろされるそれに、醜く膨らんだ雄を嬲られる。
くだらない要求を述べた己への仕返しのつもりだろうか、立ちの悪い男だ。膨らむ快楽の妄想に心臓は早鐘のように脈打ち、脳はどろどろに溶けていく。
筋の通った鼻で黒い生地を掻き分けられ、尖った犬歯が下着に食い込んだ。腰あげろと、細められた目が語る。言う通りにしてやると勢いよく脱がされ、高ぶった慾が顔を出す。
静雄は一度大きく唾を呑み込むと、朱の射す頬で己に擦り寄った。恍惚な瞳を持って、口から覗く赤い舌が陰茎を丁寧になぞる。亀頭を喰み、尿道口を軽く吸う。
「……遊んでないで、早く食べなよ」
「我慢出来ないって?」
嘲うように応えられて、また唇が触れた。
「シズちゃん」
咎めるように名前を呼び、金髪をくっと強めに引いてやる。痛いと視線で非難されるが、己は悪くない。静雄は仕方ないとばかりに口を開けた。



温かく蠢く粘膜は女の膣を思わせるように柔らかく心地よい。
唾液と先走りが混ざる淫猥な蜜が肉欲を濡らし、静雄の形だけは矢鱈にいい頭が動く度、ジュポジュポと下卑た声が部屋に響いた。
時折当たる歯の感触に背筋が粟立ち、言いようのない気持よさに酔いしれる。
「……くっ」
髪を掴んで乱暴に腰を振れば、苦しさに顰められる柳眉と薄茶色の瞳からは生理的な涙が落ちる。
普段の静雄の様子からは考えられない程の淫靡な表情にどうしようもなく煽られた。
「ん……出る……全部呑んで」
嫌がる頭を押さえて、浅ましく煮えたぎった精液を放つ。
静雄は舌に広がる苦味に呻きをもらしながらも、口腔を犯す白濁の波を嚥下した。
「いい子……」
乱れた金髪を優しく撫で、咽せる静雄の身体を抱き寄せる。
泣き濡れ厭らしく光る長い睫毛を喰み、そのまま唇をずらして、白い面に伝う歔欷の跡を辿る。
己の欲望で汚れた口元に触れようとしたところで、首を逸らされた。
「おい、なんか甘いもんよこせ。口直しさせろ」
「……後でもいいだろ。もう少し俺の味堪能してなよ」
「黙れ。クソマズイもんを味わう趣味なんかねぇんだよ、さっさとしろ」
「……まったく。こっちのお口はいつも美味しそうに呑んでくれるのにね」
可愛くない事ばかり言う静雄の耳許に唇を寄せ、鼓膜を通り脳内へと囁く。腰に回した手を滑らせ臀部の奥、甘く育った秘所を指でこすれば、細い身体がびくっと震えた。それに些か気を良くし、口角がつり上がる。
静雄はチッと舌打ちすると、汗ばんだ己のうなじに腕を回し強く引っ張った。
「手前味のするキスなんて嫌だろ?」
唇が触れる程に近付く距離、射抜くような眼光に為留められた己の赤い瞳。溢れる色香に体中に痺れが走り、だらしなく喉が鳴った。
「……プリンとシュークリームがあるけど」
「どっちも」
ククッと揶揄するように笑う男を飼い馴らすのはまだまだ時間が掛かるらしい。





2012/3/12





 




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