(臨也と静雄)




 安っぽいラブホテルの部屋に入って、すぐにふたり倒れこむようにしてキングサイズのベッドに転がった。
 シャツの裾から手を忍び込ませ身体を撫で、唇を舐める。それに応えるように開けられた隙間に舌を入れ、彼のものと絡める。
いつまでたっても息継ぎがうまく出来ない静雄の鼻から抜けたような声に、それだけで身体が熱くなった。
 早くその肌に触れたくてコートをはぎ取り、ベルトを外してデニムと一緒に靴下も脱がせる。
日に焼けていない白い足が酷く眩しい。長くスラリと伸びたそれが腰に回され、爪先が背中の上で弧を描いた。
 「……脱がねぇの」
 「ちょっと待って」
 裸の自分に対して、着込んだままのこちらの姿が気恥ずかしいのだろう。
つんと尖らせた唇に苦笑し、身体を起こして上着をベッド下に放り投げた。
 シャツを取り払う間に、彼はズボンに手をかけ脱ぐのを手伝ってくれる。それから己の浮きだった鎖骨に甘咬みを施す。くすぐったい。
 色を抜きすぎて傷んだ金髪を優しく撫でれば、鼻を首筋に擦り寄せてくる。犬のような仕草にはたと思い出し、脱ぎ捨てたズボンのポケットを弄った。
 「そう、シズちゃん。これ、はい」
 「なんだ?」
 彼に向けて差し出した掌の上で輪を作る黒色の細い革ベルト、その先にはシルバー製のドッグタグが付いている。
 「……首輪?」
 「うん。誕生日プレゼント」
 「てめぇ……ふざけてんのか。俺はペットじゃねぇ」
 「わかってるよ」
 睨めつける目を無視して、ほっそりとした首にそれを巻きつける。冷たい金属の部分が当たってか、男が身じろいだ。
 「……へぇ」
 白皙のような肌、それを穢す黒色の首輪が倒錯的な色気を放ち、たまらず舌を舐める。
狷介孤高の気高き化け物をこの手に落し入れたような錯覚に支配欲が満たされていくのを感じた。
 「いい。今のシズちゃん……すげぇそそる」
 「……変態かよ」
 チッと舌打って逸らされた頬に手を滑らす。そのままゆっくりと血管の浮き出た首筋を通り、この男が己のだという証を指でたどる。
切なげに伏せられた睫毛に唇を寄せて、その身を押し倒せば首輪に付けられたタグが澄んだ金属音を響かせて肌の上を踊った。
 「これ、ちゃんと俺の名前と連絡先が彫ってあるんだよ」
 「っ、う、ぜぇ」
 胸の突起を摘み、ペニス同士を擦り合せ耳元で囁けば、潤んだ瞳で刺すような視線を寄越してくる。
それでも、しっかり背中に這わされる指が静雄の満更でもない思いを伝えてくる。
 「シズちゃんはかわいいよね」
 「死、ね!」
 首をもたげた静雄の慾と己のそれを片手で抜き、後ろの孔にも軽く指を這わせれば、ひくりと震える身体。この時の襲いくる快感に怯える彼の顔が酷く好きだったりする。
 ベッドサイドに置かれたジェルを取って、掌にたっぷりと出し、軽く揉む。
そのまま逃げそうになる腰を抑え込み、彼の中に指を埋め抜き差しすれば、小さな声が漏れる。
 「唇、咬むなって」
 「煩……いっ」
 「いいから。声、聞かせろよ」
 掻き混ぜるように動かせば、ぐちゃりと人肌でゆるくなったジェルが水音を立てる。
溢れだしたそれが割れ目を伝いシーツを汚す。
 「ッン、あ……あっ」
 穴を広げながら静雄の好きな箇所を執拗に擦る。すると、男は耐えきれず色を含んだ声を上げた。
 「も、臨……挿、れ」
 「ねぇ、シズちゃん……これ明日学校にしていって。そしたらつっこんであげる」
 「なっ!」
 何言ってんだこいつ、といったように瞳を大きく瞠目させる静雄。
だが、こちらは至って真剣だ。首輪を掴んで軽く引っ張り、顔を近づける。
 「ね、お願い」
 「っ、絶、対……嫌、だ!」
 ぶんぶんと首を横に振る男に「じゃぁ、今日はこのままイこっか」と笑顔で言ってやる。
実のところ、この状態から一度、指でイかせてぐずぐずに崩れるところを見てみたかった。
更に、本数を増やし熱い彼の中を好きなように弄れば、これ以上は持たないと、嫌々と啼く。
 「臨、也っ」
 「ほら……うんって言いなよ」
 指を引き抜いて、己の雄で菊座を何度も押せば背中を微かにひっかかれる。
熱い吐息を漏し、恨みがましい眼差しを送る静雄の身体に密着するように覆いかぶさり、耳朶を食む。
 「ほら」
 「……わかった、から……も、臨也、欲し――」
 最後まで言葉を待たずに、熟れた秘所に己を突き刺した。びくっと背がしなり、足の震えが身体全体に伝わる。一気に引き抜き、仰け反る喉に咬みつきながら、腰をグラインドさせる。
 何度も何度も、奥に打ちつけ、その度にあがる静雄の悲鳴に近い嬌声と卑猥な水音、揺れる身体に合わせて鳴き声をあげるドッグタグが狭い部屋に響く。
 きゅうきゅうと離さないというように、締め付けてくる静雄に頭がクラクラした。
 「シズちゃん、好きだよ」
 最後にそっと呟いて、彼の中で果てる。
 「っぁあ――」
 叩きつけた精に、静雄もまた大きく身体を震わせて、白濁を吐き出して事切れたようにベッドに沈んだ。
 その横に転がって、未だ肩で息をする静雄の湿った金髪を優しく掻きあげる。
静かに目を閉じる彼に少し身体を起こして、現れた形のよい額へ口付けた。
 「おい……さっさと、これ外せ」
 「嫌だよ。約束しただろ。学校でそれを着けてる君を見るまでは無理。大丈夫、ちょっと変わったネックレスだと思えば平気だって」
 「手前……ほんと死ねよ」
 首輪に飛び散った汗や残滓を拭う己の手を静雄は気だるげに払い、そっぽを向く。
そのまま枕に顔を埋める男に喉を鳴らして笑い、背中を抱き寄せた。
 「シズちゃん」
 「うぜぇ、引っつくな」
 逃げようと転がる肩を押さえて、汗ばんだうなじをきつく吸ってやる。
 「ンッ、や、め……」
 「誕生日、おめでとうシズちゃん」
 そのまま耳許に囁いて、背中を撫でてやると途端に大人しくなる静雄がやっぱり犬っぽくて、ドッグタグにしてよかったと一人苦笑すれば、後ろ足で蹴られる。
 それさえも、じゃれついてるようにしか見えないのだから、どうしようもない。






2012/01/28





 




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -