(臨也と新羅)



 「赤か黒、どっちがいいと思う?」
 暖房が効いた図書室、正面に座る男から突然問いかけられ、読んでいた本から顔をあげた。
 「なに?」
 「赤か黒か」
 「……黒かな」
 セルティの色だし。必要最低限の返事を返せば、真剣な表情で間を詰めてくる。
 「じゃぁ、鈴と鍵だったら?」
 「……何の話なの、それ」
 あまりに脈絡のない質問に聞けば、臨也は小首を傾けて先程からずっと眺めていた携帯電話の画面をこちらに向ける。白く光るそこに映った物を見て、眉根を寄せた。
 「首輪……?」
 「まぁ、そんな感じ」
 曖昧に頷き、再びそれを己の方へ引き寄せ、つっと人差し指で液晶面をなぞる。
 「何か買うの?犬とか猫とか」
 「……どっちかっていうと犬……かな?」
 ――かな……?
 臨也のどこか含んだ物言いに若干の違和感を覚えるも、あえて深入りはしない。
当の本人はその犬とやらのことを思い出してるのか、目元を緩ませにやにやと気色の悪い笑みを浮かべている。
 「……だったらドッグタグがいいんじゃないの?リードとか」
 「あぁ、それ、いいな。うん」
 どっちがと訊ねるより先に男は「ありがと参考にする」と、立ち上がり出口を目指す。
 「ね、今度見せてよ」
 その背中にすかさず声を掛ければ、何が可笑しかったのかくっくっと腹を抱えて笑う。
 「もう、見てる」
 「え?」
 いつだろう――頭を捻るが思い当たる節がない。
 「……すぐ、わかるよ」
 結局、意味ありげな言葉を残し臨也は出て行った。
 
 ――ま、いいか。
 気になるところではあるが、基本的に愛しい彼女のこと以外に興味はない。
 あの男の言う通りそのうち分かるものなんだろうと決め、読みかけの本にまた目を走らせた。






2012/01/20





 


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