「よし、これで終わりか。」

賑やかなクリスマスパーティーが終わって、船内も静かになったころ。
食器や調理器具といった大量の洗い物をようやく片付け終えた私たちは、揃って大きなため息をついた。

「いやー、今年も疲れたな…さっさと寝るか。」
「そうだね、おやすみー。」

毎日の家族のご飯を用意するのは、四番隊である私たちの役目だ。
明日のことを考えれば、疲れた体は早々にベッドに沈めてしまうのがいいだろう。
みんなと別れて船内をぽつぽつと歩くなか、上着の内側から小綺麗に包装されたものを取り出した。

「結局渡しそびれちゃったけど…」

密かに思いを寄せているサッチ隊長へ、意を決して用意したプレゼント。
隙を見て渡せるようにと隠しておいたけど…こんな楽しくて忙しい宴の日に隊長が暇になる時間なんてあるはずもなく、渡せないままここまで来てしまった。
宴の雰囲気の中でなら、お世話になっているからとかそれっぽい理由をつけて渡すことができたと思うけど、今からなんてとてもじゃないけど渡せそうにない。
でもこのプレゼントには、私の気持ちがたくさん詰まっているわけで…。

(…やっぱりもらってほしいな。)

決心が揺らがないうちに、急いで隊長の部屋を目指す。
きょろきょろと周囲を見渡しながら音を立てないよう部屋のドア前まで近づき、袋に入れたプレゼントをそっとドアノブに引っ掛けた。

(メ、メリークリスマスです、サッチ隊長)

これが今の私の精一杯。
逃げるようにその場を離れて部屋に戻った私は、布団の中に潜り込むと目をぎゅっと閉じた。

ーー


「ふああ……さむ…」

朝一番ではないにしても、この季節の目覚めは相変わらず億劫だ。
寝ぼけた顔を起こして布団から出ると、すでに起きていた姉さんたちが一ヶ所に集まって何やら話をしている。

「おはようフィル。」
「おはようございます。どうしたんですか?」
「それがねえ…朝起きたらドアノブにこれが掛かってたらしいのよ。」

楽し気に笑う姉さんたちから渡されたのは、赤と緑のチェック柄の袋に大きなリボンが付いていて…まるでクリスマスプレゼントだ。
しかも、付属していたカードには私の名前が書いてある。

「わ…私宛て?」
「そうみたいね。ずるいわあ、フィルだけなのよ。」
「中は何かしらね?はやく開けてみてちょうだいな。」
「は、はい。ええと…」

誰からか不明の贈り物。
少し警戒しながらも包装を取ると、現れたのはニットのセーターだった。
軽くてふわふわとやわらかく、うっすらとしたベージュの色がよりあたたかさを感じさせる。
寝起きの体には気持ちの良いやわらかさで、ついつい頬を埋めてしまう。

「あったかい…えへへ、ふわふわだ。」

ーー


「ほー、プレゼントが。」
「そう。しかも私のだけ引っ掛かってたの。」
「いいよなーフィルは、まだサンタからプレゼントもらえて。」
「そういうことじゃないから!」

持ち場についた私は今朝の出来事をさっそく話した。
話のついでに送り主を探してみるけど、知らないとみんなに首を横に振られた。
そうこうしていると調理場にサッチ隊長が入ってきたので瞬間どきりとしたものの、悟られないようみんなに混じって挨拶をする。

「おはようございます、隊長。」
「おう、おはようさん。」

古株の兄たちにはもちろんのこと、まだまだ半人前の私にも隊長はちゃんと返してくれるのだ。
…あのプレゼント、見てもらえたかなあ。

「隊長、聞いてくださいよ。フィルがサンタからセーターもらったんです。」
「へェ、サンタから。良かったじゃねえか。」

良かったと言うわりには隊長もみんなと同じような口ぶりで笑う。
子ども扱いされるのは不満だけど…こうして隊長が私のことに触れてくれるのはちょっとだけ嬉しかったりするんだ。

「サンタじゃないですよ!相手の名前が無かったので誰からかわからないだけです。」
「ふんふん。で、その相手を探してるってか?」
「そうです。」
「そうか。ちなみにおれのとこにも来たぞ、サンタ。」

隊長の話に私の緊張は一気に高まる。
バレてませんように!バレてませんように…!!

「はいはい、隊長はモテていいですねー。何入ってたんですか?」
「万年筆とインク。今のやつ調子悪かったから助かったぜ。さっそく使わせてもらってる。」

…さっそく役に立ったみたいだ。
隊長は事務仕事をしているときに寝落ちしてしまうことがあるそうで、その際にペンを落として先が潰れるといったことが起きるらしい。
だから、もしものときのために予備があったらいいかなあなんて思って選んだんだけど…そっかそっか、あれにして良かった!

「で、誰からもらったんです?」
「それがなー…ドアに引っ掛けてあったから誰からかわからなくてよ、おれもサンタ探しをしようと思ってたとこなんだ。どうだフィル、一緒に探すか?」
「え!そ、そうですね…」
「んだよ、ノリが悪いな?おれの隊ならそこは『はい』一択だろうが。」
「は、はい!」

…「はい!」じゃないよ!返事してどうする!
どうしようと内心焦る私の目の前では、サッチ隊長が満足そうに頷いている。

「よし決まりだ。んーと…お、ちょうど休憩かぶってるな?そんときにするぞ。」

また後でな、と残してその場を去っていった隊長を見送りながら、私はこの問題をどうやって切り抜けるかを必死に考え始めるのだった。
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