「フィルちゃん、」

一段と冷え込む夜。
大きな時計台の下で息を白くしていたら、私が待ち望んでいたあの人の声が聞こえてきて。
声のした方を見るとブラウンのロングコートを着たサッチさんの姿が見えた。
ここまで走ってきてくれたらしく、サッチさんは私にも聞こえるくらいの大きさで息をしている。

「遅れてごめん、寒かったろ。」
「い、いえ、大丈夫です。」

首を横に振ってみせれば、サッチさんはすかさず私の手をとりそのままぎゅっと包む。
その行動にはもちろんのこと、サッチさんの手のあたたかさにもびくりと反応してしまう。

「ウソ。手ェ冷たい。」

手のひら、それに指からもじわりと体温が伝わってくる。
たったこれだけのことでさっきまでの待ち時間をどうでもいいと思ってしまう私はきっと重症なんだろう。
何も返せないでいるとサッチさんはそんな私を見て少しだけ笑って、それから片方の手を自由にしてくれた。

「…じゃ、そろそろ行こっか。」
「…はい。」

もう片方の手はサッチさんとつながったまま。

ーー


あのあとは少し遅めのご飯を食べに行った。
サッチさんは私をいろんなお店に連れていってくれるけど、今日のお店はいつもよりも落ち着いた雰囲気で他のお客さんも大人っぽい人たちばかりだったから緊張してしまって。
やっぱりそういう日だから意識して選んでくれたのかなと思うと余計に恥ずかしくて…一向に目を合わそうとしない私をサッチさんは楽しんでいたみたいだった。
お店を出たあとは大きなツリーの形に飾られたイルミネーションを眺めて、その時にプレゼントを贈りあったんだ。
全部が全部初めてで…ずっとどきどきしてた。
サッチさんとの時間はあっという間で、普段よりもずっとゆっくりとした歩調で帰り道を歩く。

「あの、」
「ん?」
「今日、…ありがとうございました。」
「おれ何かしたっけ?プレゼントのこと?」

ふるりと一度だけ小さく。
もちろんプレゼントは嬉しかったけど…私が言いたいのはそれじゃない。
前から昨日も今日も仕事だって聞いていて、仕方ないって自分を納得させていたけど本当はすごく会いたくて。
そうしたら昨日電話がかかってきて、時間も遅くなるし少しの間だけどいいかって言ってくれて。

「…疲れてるのに会ってもらったから、その、」

嬉しかったです。
そう付け足したところでサッチさんはぴたりと足を止めて。
つられて私も立ち止まれば、次の瞬間には目一杯抱きしめられて思わず変な声を出してしまった。

「連れて帰りてェ。」

ため息混じりの低い声が耳にかかる。
慌てて拒否したけど、もっと一緒にいられるならそれもと思ってしまったことは絶対に言えない。
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