「…っし、明日の仕込み終わりー。」
「こっちもだ。…それはそうとよォ、」
「ん?」
「フィルのやつ、何か荒れてねえか?」

今日はクリスマスイブ。
私だって海の女といえども一応乙女の端くれだ、今日くらい好きな人と一緒にいたいなあなんて甘い夢を見たりもするわけです。

「まあ仕方ねえだろ、あれ聞いちまったらなあ…。」

しかも、偶然にも我が白ひげ海賊団が昨日到着したこの島は冬島。
雪はしんしんと降り積もってるし、島中きれいなイルミネーションやら何やらで…シチュエーション的にはばっちりなんだ。

「あれって何だよ。」
「お前知らねえのか?…っとなあ、フィルに頼まれて隊長の今日の予定聞いたんだけどな、帰ってきた返事が『…色男にそれ聞いちゃう?』だったんだよ。」
「あー…、隊長らしいっちゃらしいな…。」
「まあもとからケーキはつくる予定らしかったんだが…ああなっちまうのも無理はね」
「むっきいいい!」
「「!!」」

突如奇声を発した私を家族が凝視する。
ホイッパーを動かす手は最新ミキサーもびっくりな速さだ。

「ちょ、フィル落ち着け!おれらが悪かったから!」
「だって、だって…っ!!」

涙腺は決壊寸前。
何でって…私はサッチ隊長が好きなのだ。
優しくて、面白くて、笑顔がすごく似合ってて、普段はおちゃらけてるけどいざ厨房に立つとその目は真剣で格好いいし、戦闘となれば私たち隊員や家族の安全にすごく気を配ってくれるし、どんな小さな悩みごとでも真面目に聞いてくれて…もう挙げ出したらきりがないくらい隊長が大好きなのだ。
私がずーっと憧れてやまないサッチ隊長は、今ごろ島のきれいなお姉さまを引っかけてよろしくやっているんだろう。
隊長は話術もあるし、女の人の扱いも上手いから。

「フィルも島で遊んできたらどうだ?ここにいると色々考えちまうだろ?」
「…やだ。」

私の事情を知るナースさんたちも一緒に行かないかと声をかけてくれたけど、首を縦に振ることはしなかった。
だって…もし島で隊長を見かけちゃったら、もし島の女の人が隣にいたらどうしようもないんだもん。
それこそ泣いてしまうかもしれない。

「なあフィル、よーく考えてみろよ。島の女はどうせその時限りでしかねえんだぜ?」

島の女の人に妬いてるわけじゃない。
隊長に怒っているわけでもない。
本当はこうやってうじうじするばっかりで、ほんの少しの勇気も出せない自分が嫌なんだ。

「それによォ、明日は宴だから隊長と一緒にいられるじゃねえか。」
「…うん。」
「…ほら、今フィルは何してんだっけ?」
「ケーキ、つくってる。」
「そうだな。じゃあ沈んだ気持ちでやってるとケーキに失礼なんじゃねえか?」
「…たいちょ、いつも言ってるもんね。」
「ん。」

ぽすりと頭に置かれた手があったかくて、それに優しい。
ゆっくり、大きくうなずいた私にふたりはホットミルクをつくってくれた。

「おれらもう行くけど…フィル、今夜は冷えるらしいぜ。風邪ひくんじゃねえぞ。」
「うん、ありがとう。」

そう言って手を振ったあと、生地づくりを再開する。
ふたりのおかげで少し元気になれたから、今度は優しい気持ちでケーキをつくるんだ。
やっぱり隊長に食べてほしいなあ、なんて。
そういえば…去年は海の上で夜通し宴だったっけ。
みんないつも以上に騒いでたし楽しかったけど、四番隊の忙しさもいつも以上だったんだよね。
潰れる数が増えてきて一段落したころに「お疲れさん」って隊長がみんなに出してくれたのはブッシュ・ド・ノエル。
私が今つくっているのも、実はそれなんだ。

「…去年は楽しかったなあ。」

大好きな人が近くにいたから。

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