手が空いたら部屋に来い。
そう隊長から呼び出しを受けた私は、どきどきしながら隊長の部屋のドアを叩く。
髪を下ろした隊長が出てきたときは堪らず顔に出してしまったけど、単純に驚かれたと勘違いしたらしい隊長は笑いながら招き入れてくれた。
指示通り椅子に座っていると、隊長が出してくれたのはハーブティー。
隊長の試作なのか、見たことのない焼き菓子も並んでいる。

「食えよ。今日は疲れただろ。」
「ありがとうございます。おいしそう…」
「遠慮すんな。…しっかし、全ッ然見つからねえな。」

椅子に腰かけた隊長は、そう言いながら天井を仰ぎ見た。
その姿に少し罪悪感が生まれるけど…できることならこのまま隠し通したい。

「そ、そうですね…私はもういいかなって思ってるんですけど、」
「いやいや、気になるだろそこは。こうなりゃ全員集めて訊くか?」
「ええ?それだと余計に名乗るの躊躇っちゃうんじゃないかと…」
「それもそうか。上手くいかねえもんだな。」

こ、このまま諦めてくれないかなあ…?
ハーブティーを飲みつつこっそり隊長の様子をうかがうと、隊長は自慢の髭を触りながら小難しい顔をして考え事をしているようだった。

「どうしました?」
「いやな、あの足音絶対聞いたことあんだよ。結構身近なやつなんじゃねえかと思ってんだけど……」

気付かれたくない、なのに心のどこかでは気付いてほしいと思っている自分もいて。
一層の緊張を感じつつ隊長を見つめると、しばらく悩んでいた隊長が身を乗り出しながらああ、と大きな声を出した。

「あれだ、ジョズのとこの子だ、そうだそうだ。」
「え…?」
「いるだろ、お前より少し背が高くて細身のよォ。よく書類持ってくるんだよ。ああそうだ、この前ペンの調子が悪くてサインが汚くなっちまったっけ。それ覚えててくれたんだな、きっと。」

その相手のことは知っているけど、でもあれは、あのプレゼントを置いたのは。
ここまで隠し通し、さらに嘘までついてしまったのは私自身。
今さら本当のことを切り出すことも出来ず、けどこの気持ちを殺して隊長の話を喜ぶことや、上手く相づちを打つことも出来ない。

「いやー、スッキリした。じゃあちょっくら礼でも言いに行ってくるかな。」
「え、サッチ隊長、」
「すぐ戻ってくるって。それ適当に食ってていいから留守番頼むわ。」

隊長は軽やかに腰を上げると、そのままドアの方へと向かう。
晴れやかな表情でひらりと手を振られたので、咄嗟に立ち上がった私はその勢いのまま隊長を呼び止めた。

「どうした?」

何の疑いもないまっすぐとした目が私を見下ろす。
さっきは無我夢中だったから呼び止めたあとのことなんて全く考えていなかったし、本当のことを言うつもりもなくて。
けど、このまま隊長が違う人のところへ行くことだけはどうしても嫌だったんだ。

「わ…わたしなんです!隊長が探してる人!」

ああ、とうとう言ってしまった。
絶対に呆れられた、失望された。
情けなくて悲しくて半分泣きそうだったけど、泣いてしまうのはもっと惨めだから歯をくいしばって何とか堪える。

「恥ずかしくて、本当のこと言えなくて…ずっと黙ってて、嘘ついてすみませんでした!おやすみなさい!」
「こら待て。言い逃げは許さん。」
「ぎゃっ!?」

隊長は私がドアへたどり着く前に首周りの服をつかんで、そのまま力任せに引っ張った。
隊長の手から逃れようと必死にもがいてみるけど、
私なんかの力じゃ隊長に敵うはずもない。

「た、隊長、放してください、わかってますからもういいんです、、こんな顔見られたくないです、」
「あーもう暴れるな。……ほれ、これ見て落ち着け。」

捕獲されたままずるずると引っ張られて机近くまで戻されてしまった私に、隊長は何かを差し出す。
逃げ出すことも出来ずしぶしぶ見てみるも、それはただの用紙だった。
でもそこには私の名前が書いてあって、さらに言えば例の書体と似ている気がするというか…すごく似ているというか…。

「どうだ。」
「……あの文字と似てます、すごく。」
「ばか。同じなんだよ。よく見てろ。」

隊長はさっきの紙を取り上げると、私が贈ったペンを使ってさらさらと同じものを書いて見せた。
隊長が言っていることが本当なら、あのカードに名前を書いてプレゼントを置いていったのは……え?え??本当に??

「置いてったやつがお前だってのは最初からわかってたんだよ。部屋の前で何分もうろうろしやがって…置くならさっさと置け。昨日もおれのことチラチラ見てたよなあ?おれの方が気になって仕方がなかったっつーの。あのセーターもお前の真似して置いてみたんだが、さっぱり気がつかなかったみたいだしな。」
「だ、だって…」
「ったく……あそこでお前がおれのこと止めなかったらどうしようかと思ったぜ。」

バレていないと思っていたのは大間違いで、隊長は昨日の宴の時点から私の異変に気づいていたようだ。
隊長は意地悪な言葉と表情でちくちくと攻撃してくるから、当然私の体は小さくなるわけだけど…でも待って?私だって隊長に言いたいことくらいありますよ?

「で、でも隊長、最初から私だってわかってたんですよね?それなら」
「あー…そのことについては悪かったよ。けどお前必死に隠そうとしてたし、仕舞いにゃ嘘つくからもう少し遊んでやろうかなーと…」
「ひど…っ!」
「悪かったっての!まあ最後には全部言うつもりだったし…その、あれだ、これで許せ。」

言うなり体を引き寄せられ、そのまま強引にキスをされる。
隊長の思い通りってわけじゃないけど…その行為に全部を持っていかれた私は、文句のひとつも言えなくなってしまった。
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