「よう、サッチ。」
「偶然だね。」

デート中。
知った声に振り返るとイゾウとハルタが立っていた。

「久しぶりだな。半年くらいか?」
「そうだね。」

自然と溢れる笑みに弾む声。
馴染みとの偶然の再会を喜んでいたおれの隣ではフィルがぱちぱちと目を瞬かせている。

「ああ、悪い。フィル、こいつらは…」
「サッチ、お前の彼女か?」

そういえばこっちにも説明が要ったか。
にやりと笑うイゾウにそうだと頷けば、照れたらしいフィルがうつ向く。
…ああ畜生、かわいいな。

「フィル、こいつらはおれの知り合い。童顔なのがハルタで女顔なのがイゾウな。」

ふたりと会うのが初めてのフィルに超わかりやすい説明をしてやれば、ふたりからの突っ込みは何倍にもなって返ってきた。
口が悪いのは相変わらずか。

「は、初めまして。フィルです。」
「ハルタだよ。よろしくね。」
「イゾウだ。」

ちょっと緊張してんなあ。
言葉も体も固いフィルを見て苦笑していると、ハルタがフィルをまじまじと見つめつつ何か唸っている。

「どした?」
「…いや、意外だなと思って。」

サッチにしては。
付け足されて理解する。
ハルタは見た目も容姿もそこまで派手ではないフィルを選んだおれを不思議に思ったのだろう。

「失礼しちゃうぜ。な、フィル?」
「へっ?」
「まあおれもハルタと同感だな。」
「でしょ?サッチはフィルのどこに惹かれたのさ。」

今一つ理解出来ていなさそうなフィル。
なのにいきなり自分の話題になって、しかもそれに答えるのがおれというフィルからすれば予想外の展開におたおたと焦り始めた。

「はあ?フィルのどこが好きかなんて…決まってんだろ。全部だよ、ぜんぶ。」

な、と笑いかければ予想通りフィルが顔を赤くしてうつ向く。
うん、こういうとこも好き。

「あーはいはい、もっと具体的に挙げてよ。」
「仕方ねえな…いいか?フィルはすげえかわいいんだ。すぐ照れるし反応とか仕草とかがたまらねえな。それから笑顔もいいよな、あのふにゃってやわらかい感じ。すげえ癒される。あと一緒にいて落ち着く。空気っつーの?フィルと一緒に寝てるときとかすげえ幸せだもん。」

ひとり思い出しては納得しつつ、つらつらと挙げていく。
隣のフィルといえば…言わなくてもわかるだろう。

「あとたまに抜けてるところがあるんだけどさ、そこがまた」
「はいそこまで。もうわかったから。」

呆れたようにため息をついたハルタに強制終了させられた。
イゾウもご馳走さま、といった表情だ。

「ひひっ。…ま、ありのままのおれを愛してくれるフィルが好きってとこかな。」

おれからの大胆な告白にフィルは耳まで真っ赤にしている。
もうまともにおれを見ることが出来ないらしい。
その反応がまたかわいくてくつくつ笑っていたら。

「なあ、嬢ちゃんはこいつのどこに惚れたんだ?」
「、え?」

これまた予想外だったのだろう。
顔を赤くしつつも現実に戻ってきたフィルにハルタからも共感の声があがる。

「だってリーゼントだよ?しかもおっさ」
「オニーサンと言え、そこは。」

辛うじて最後まで言い切ることを防いだおれもフィルに注目。
フィルは恥ずかしがってこういうことは滅多に言わないからおれからすれば嬉しい状況だし、何て言ってくれるのかわくわくする。

「…か、髪型、私は似合ってると思います。」

ぽつりと落とされた言葉におれの気分は余計に良くなる。
堪らず抱きつけば短くてこれまたかわいい驚きの声。

「あーもうフィルってば最高!ほら聞いたか!?お前らにいくら馬鹿にされてもフィルがこう言っで!?」
「黙ってな。まあ髪型はどうあれ…ただの調子のいいおっさんだぜ?こいつは。」

一発でおれを沈めたイゾウがフィルにいらねえことを吹き込みやがる。
ちょ、今の本当痛かったんですけど。

「そ、そんなことないです。…サッチさんは私のことをいつも気にかけてくれて、すごく優しいですよ。」

フィルの表情からでもおれに対する気持ちがうかがえて、幸せなことこの上ない。
疑いの目を向けてくるふたりには得意気に笑って返してやる。

「明るくて面白くて、サッチさんと話すと元気になれるんです。それに笑ってるときのサッチさん、すごく素敵だと思います。」

フィルがおれの笑ったときの顔に弱いってのは気づいてたけど、こうあらためて言われると…何か照れちまうな。
恥ずかしさを残しつつもおれのことを話すフィルにむず痒いものを感じ始めていたら。

「料理だってすごく上手なのに私のつくったものが食べたいって言ってくれますし、普段は私が甘えてばかりですけど…たまにサッチさんが甘えてくれる時があってそれがかわいいなって思います。あと、私が軽い貧血で倒れたときは本当に心配してくれて。すごく真剣な表情だったからあの時は私の方が驚いちゃって…」

まずい。
そう感じたのは、フィルが自分の世界に入っていると思ったから。
フィルは時々こうなることがあって、その時のフィルはおれが驚くくらい本当によく喋る。
こうなっちまったら本人が言い切るか周りの誰かが声をかけるかしねえと止まらねえんだ。
いや、そりゃあ自分の彼女に自分の好きなところ言われて嬉しくねえわけねえ。
けどな?
フィルからは言われ慣れてねえっていうのと馴染みふたりの前でこうも良く言われるってのと…あと今いる場所だよ、フィル気づけって普通に周り人いるから!これだけ条件重なったら流石のおれでも照れるし恥ずかしいっての!
そんなおれにふたりはもちろん気づいていたわけで。
フィルを止めようとしたおれの口を塞いで「折角じゃねえか、しっかり聞いてな」と嫌な笑みをひとつ付けてくるイゾウに、丁寧な相槌をついてフィルにとことん喋らそうとするハルタ。
フィルはといえば完全に自分の世界に入っちまってるらしく、恥ずかしがりながらも「おれの好きなところ」を次々と挙げていく。
ほ、本当勘弁してくれって…!

「たくさん教えてくれてありがと。結局まとめるとフィルはサッチのどこに惹かれたのかな?」

きりがいいのか、十分に楽しみやがったらしいハルタが話をまとめようとする。
はっとして戻ってきたフィルはやっぱりうっすらと頬を染めつつぽつりと、けれどはっきりと。

「…全部、です。」

こんなこと言われちまったが最後、何も言葉が出てこねえ。
いつの間にかイゾウの拘束もなくなってたんだけど、後半からはそれがあってもなくても同じだった気さえする。
フィルからの視線を感じるが、残念ながら片手で顔を覆ったおれにはありがとうとか気の利いた言葉をかける余裕もない。

「そっか。フィル、サッチのことよろしくね。」
「邪魔して悪かったな。」

ふたりの言葉に照れたフィル以上に顔を赤くしているであろうおれを見て、ふたりが内心大爆笑していることは間違いないと思った。

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