「…え、えーすせんぱい…。」
「ん?何だよフィル、ほら水飲め。」
「ど、どうも…。軽音楽部に、朝練って、ありましたっけ…?」
「ないに決まってんじゃん!」

で す よ ね !?
7時30分集合とか言われて嫌な予感しながら来てみたら案の定朝練ですか!
しかも何でグラウンド走らされたんだ、歌の練習はどこ行った!?

「、あの…何で歌の練習じゃ、ないんですか?」
「ああ。あまりにもフィルが体力無さすぎだから、だってさ。これじゃあ1曲もたない、ってイゾウが嘆いてたぞ。」
「で、家が学校に近いおれとエースが朝練をみることになったんだよい。」
「…ご、ご迷惑、おかけしてます…。」
「「いえいえ。」」

うう、ハモらないで…っ!
予想はしてたけど、やっぱりイゾウ先輩の指示だったのか…ということは歓迎祭までは確実に今日みたいな朝練が続くってことだよね、ちょっとでも体力つけるために毎日やるんだよね。
…ボーカルも体力が要る、って…私本当向いてないじゃんか。

「…エース、フィル。そろそろ戻らねえと遅刻になっちまうよい。」
「!フィル立て、戻るぞ!」
「ちょ、早!?待ってください…っ!」

ーー


「…あははっ!フィル、それってもしかして今日の朝練でこけたの?」
「、そうですよ…。だって私体力ないし…。」
「それってただ抜けてるだけじゃない?気を付けなよ、ボーカルさん。」

ハルタ先輩は見てるだけで癒されるんだけど、時々強烈な一言を放ってくるんだよね…まあこれは私が悪いからね、仕方ないか。

「はい、…がんばります。」
「フィル、お喋りはそのへんにしな。やるぞ。」
「……はい。」
「サッチ、」
「はいはーい、テンポは昨日と同じか?」
「ああ。」

は、始まってしまった…。
本番まであと2週間と4日しかないのに、私本当に歌えるのかなあ。
先輩たちは練習日じゃないのに私に付き合ってくれてるし、私だけじゃなくて先輩たちのためにも成功はさせたいけど…

「そこ、処理が雑すぎだ。」
「ああ?わざと音程ずらしてんじゃねえだろうな。」
「響きが全くねえ。そんなんで会場全体に聞こえるとでも思ってんのか?」

これじゃあ…歌わせてもらえるかどうかさえ怪しいよ。
結局上達しなくてやっぱりイゾウ先輩と交代…、ってこともあるよね、うん。
私、歌うのは好きなんだけどなあ…人に聴かせるってなるとそれだけじゃだめなのかあ…。

「フィル、声が小せえ。歌がよくても聞こえなかったら意味ねえんだぞ?」
「…すいません。」
「最初から。」

今は、1日目に渡された譜面の練習をしてる。
というか…1曲しか渡されてないので、練習時間は基礎練かこの譜面の練習しかしない。
…歓迎祭は何の曲するんだろ、結局私だけ知らないままだ。
もしこれ以外の曲とかだったら、私本当に終わったよね。

「それじゃあ怒鳴ってるだけだろうが。声も潰れてやがる。」
「は、はい。」
「…きっついなー、イゾウ。」
「そりゃあ、あと3週間もないからねい。」
「それに、演奏順も最後だ。半端なものを聴かせるわけにはいかないからな。」
「ぼくたちバックとの兼ね合いもあるでしょ?フィル、相当大変だろうね。」

皆さん、ものすごくプレッシャーかかってます…!
改めて考えたら、私って本当危機的状況に置かれてるんじゃないかな、うんそうだ。
イゾウ先輩の歌はすごく上手だったし…私の下手な歌聴かされててもどかしいだろうな。
加えて一向に上達しないし、焦って当然だよね…。

ーー


「…チッ、もう下校時間か。」
(や、やっと終わりだ…。)
「フィル、土日の間に復習しときな。あと、これ。」

…な、何だこれ、CD?
聴けってことかな…。

「遅くなったが…原曲だ。休みの間に聴いて、頭に叩き込んどきな。」
「は、はい。」
「来週からは今までみてえに甘くねえぞ。覚悟するんだな。」

ああ、今までは甘い方だったんですね。
私には日を追うごとに厳しくなってるってことしかわかりません。
イゾウ先輩の厳しい、って地獄くらい…いや、それ以上だな。

「フィル立て、帰るぞー!校門が閉まっちまう!」
「…はい。」
「フィル、そんな落ち込むなよい。」
「ああ。フィルはよくついてきている方だ。」
「……はい。」
「フィル、ほら立って。今日は朝練もあったでしょ?早く帰って休みなよ。」
「………はい。」

その日、私は先輩たちに引きずられながら下校した。

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