「あー、そうか。そういえばちゃんとしたやつまだだったな。」
「記憶が新しいうちにやった方がいいもんね。」
「歓迎祭の時と、部内だけでやったときのもあるぞ。」
「というわけだ。集合。」

ははあ…そうか、反省会かあ。
そうだよね、振り返りって大事だもんね。
でも本番ってあっという間だったから反省できるほど記憶が残ってない気が…ん?ジョズ先輩、どうしてパソコンなんてものを用意……んんん??

「せ、先輩、」
「何だ。」
「反省会ってどうやるんでしょうか…?」
「はあ?録画したやつ見ながらに決まってんだろ。」

録画したやつ!?そんなのしてたの!?いつの間に!?
み、見ながらやるの??だめだよ、そんなの恥ずかしいし無理無理、先輩たちは上手いからいいかもしれないけどさ、私は初心者オブ初心者なんだからそれをみんなで見るなんて止めていただきたいんですよ、せめて私ひとりで見るんだったらまだしも、ねえ?

「せ、先輩、」
「何だ。流すから静かにしてろ。」
「だ、だめです、恥ずかしいです、」
「そうか、わかった。音量でかくしてやる。」
「いやいや、全然わかってませんよねそれ、」
「新入部員に拒否権はねえ。以上。」

この…っ!!
そりゃ私は下っぱですよ!ついでに言うなら人権もないですよ!あなたのせいで!!
何が「言いすぎた、悪い。」だよ!もっと反省しろ!!そしてもっと私に優しくしろ!!

「フィルちゃん、大丈夫だから、な?」
「そ、そうだぞ、嫌って言っていいんだぞ、」
「そうだよ、あんなのいちいち気にしちゃだめだよ、」
「…はい。」

はあああ、先輩たちのフォローが心に染みる…。
他の先輩はこんなに優しいのになあ…この先輩だけは本当に…はあ。

「ほら、顔上げろ。始まるよい。」

ーー


「…さて、全部見終わったわけだが…」

…終わった、地獄のような時間がやっと終わった。
歌う前の緊張と吐き気がマックスの時間も辛いけど、自分が歌ってる動画を早送りもさせてもらえないまま全部受け入れなきゃいけないっていうのは拷問に近いものを感じたよ…。

「フィル、何か思ったか。」
「!わ、私からですか?」
「イ、イゾウ、おれらから言わねえか?」
「そうだよ、最初はちょっと…」
「いいや、こいつからだ。」

はあ…これだよ、この誰の言うことにも耳を貸しませんスタイル。
だって私に音楽的な意見を求められてもわかるわけないじゃん!察しろ!

「…本当に何でもいいですか?」
「ああ。ひとつだけでいい。思ったことを言ってみろ。」
「自分についてだけなんですけど…」
「逆に訊くが、他人に口出す余裕があるのか?」
「「「イゾウ、」」」

ああ言えばこう言う…!!
この人さあ!私のことミジンコか何かだと思ってるんじゃない!?私だってへこむんですからね!?
くそう…ちょっと確認しただけじゃん!そうですよ!自分のことで精一杯ですよ!!
まあひとつだけでいいのは助かるけど…。

「…歌ってるとき、もう少し視線を上げた方がいいかなって思いました。そうしてるつもりはなかったんですけど、うつ向いてるように見えたので…」
「正解。」
「へ?」

せ…正解?なにそれ?
他の先輩たちも拍手してるんだけど…私そんなすごいこと言ったつもりないぞ??

「あの…さっきので良かったんですか?」
「ああ。どうかしたか。」
「だって全然音楽関係ないし…」
「いいんだよ、それで。」

いいの?何で??
せっかく録画したんだからもっとこう…バランスとか何かそういうのチェックしたりしないのかなあ。

「フィルちゃん、上手い演奏をするってのも大事だけどな、おれらは観客に楽しんでもらうことも大事にしてえんだ。」
「観客からはどう見えてるのか…ということだな。」
「どこで盛り上がったとか、曲ごとの反応はどうか…とかも見るよね。」
「視点が変わって初めて気づくこともあるんだよい。」
「顔上げろっつーのはおれが何度も注意してたことだが…自分でもそう思ったんならちゃんと直す気になるだろ。」
「…はい。」

そうか…今まで上手く歌うことを考えてばっかりだったから、お客さん目線で見ることは考えてなかったなあ。
間奏のときもそわそわしてて変だなって思ったし…堂々としてろってよく言われてたのはこのせいだったんだな、きっと。

「お前が心配してる音楽的なことはおれがしっかり聴いといてやったから安心しろ。」

…これ逆に安心できないやつだ。
気を付けなきゃいけないこと増えたし、明日からすごい大変だぞ…?

「パフォーマンス次第で聞こえ方も変わるんだよ。ボーカルは一番目立つってのに…下手くそがもっと下手くそに聞こえるぞ。」
「こら!お前ってやつは…!」
「返事。」
「……」
「どうした?」

下手くそ、下手くそ。
先輩に言われて、朝のことや思い出したくないものを思い出してしまった。
私の反応がないために他の先輩たち様子をうかがい始めたので、変な心配をかけまいと返事をする。

「…気を付けます。」
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