毎日があっという間に過ぎていくのはきっと部活が充実しすぎているからだと思う。
ちゃんと聞いてるからねとこっそり応援してくれた友だちを教室に残し、足取り重く放送室へ。
ああどうしよう、結局何言うか決まってない…。

がら。

「失礼します…」

専用の機材がたくさんの放送室。
部屋には六人の先輩たちと多分放送部の人だと思われるふたりの先輩がいて、ぱちりと目があった。

「へェ、この子がお前らの秘密兵器か。」
「わ、女の子なんだ!」

秘密兵器って…先輩たち私のことどういう説明してるんですか!?
私はただの新入部員で下手くそ初心者ですから!

「おれはサボ。エースのいとこで放送部の部長やってるんだ、よろしくな。」
「コアラだよ。副部長やってます!」
「!えと、フィルです、よろしくお願いします。」

どんどん先輩の知り合いが増える…!
背が高くて格好いいサボ先輩に、ぱっちりとした目がかわいいコアラ先輩。
素敵な先輩ふたりと握手なんてつい緊張してしまう。

「じゃあ勝手にやってくれていいぞ。そこで見てるから。」
「サボ君!ごめんね、使い方覚えてる?」
「ありがと。喋るときここ押すんだっけ?」
「そうだよ、赤いランプがついてるときは声入っちゃうから気を付けてね。」
「ありがとな。…よーし!じゃあお前ら本番行くぞ!」

エース先輩がそう叫ぶと他の先輩たちもそれぞれに返事をして。
ええと、先輩?さすがにいきなりはないと思うんですが…。

「あ、あの、リハとか」
「諦めな、そんなもんねえよ。」
「だ、大丈夫だって、入りとかちゃんと合図だすから、な?」

…いやだあああ!
何でリハーサルしないんですか!?普通するでしょ!?流れの確認とか!私初めてなんですってば!!
心の叫びも虚しくエース先輩はあっさりと放送のスイッチを押してしまい、もう引き返せない状況になってしまった。

「…昼時にすまない。軽音楽部部長のジョズだ。少し連絡があるのでそのままでいいから聞いてほしい。」

部長をやっていて慣れているのか、普段通りにすらすらと喋るジョズ先輩。
さっきまでとは変わって静まり返る部屋に私もぴんと背筋が伸びる。
ジョズ先輩のすぐ後ろで待機しているのは二番手のハルタ先輩とエース先輩だ。
ど、どうしよう、その場のノリとかって言われても全然思い浮かばな…

「「どーもー!!白ひげでーす!!」」
「!?」

こ、声大きすぎです…!
この瞬間だけ私の緊張が吹っ飛ぶくらいだ。
きっと校内中でキィンというあの甲高い音が鳴ったことだろう。

「ギターやってるエースだ!」
「キーボードのハルタでーす!今日はぼくたち白ひげから重大なお知らせがあります!何と何と!?」
「そう!白ひげで単独ライブをやるぜ!詳細はこのあと他のメンバーが喋ってくれるから最後までしっかり聞いてくれよな!」

こ、こんな高いテンションで告知するんですか!?無理無理!絶対無……いや、待てよ?ということはあの低血圧でいつも眠そうでだるそうにしてるマルコ先輩も…!!

「あー…ベース担当のマルコだ。明日の昼休み、12時20分から開始予定だよい。興味のあるやつは聴きに来てくれると嬉しいよい。」

マルコせんぱーい!?
ちょ、ちょっと!いつもと同じじゃないですか!ふたりとの落差ひどいし!

「ドラムやってるサッチでーす。場所は中央広場な。吹き抜けだから上から聴いてくれても楽しいと思うぜ。」

…んん?ああ何だ…サッチ先輩も普段通りだしハルタ先輩とエース先輩が特別だったってことか…。
というか何でみんなそんなにすらすら喋れるんだ?
そんなに早く喋り終わっちゃったら私が言うこと考える時間が…!

「…イゾウだ。曲はふたつ用意してる。一曲はおれが歌うが、もう一曲はおれたちの秘密兵器が担当する。じゃあ最後にその秘密兵器サマから一言あるそうだから聞いてやってくれ。」
「!?」

今この人何て言った!?
とんでもない無茶ぶりに驚いている間にぐいと引っ張られマイクは目の前。

「う、あ、」

もう頭の中は真っ白。
しゃ、喋らなきゃ!何か一言!早くしないと!
締めっぽいこと!秘密兵器っぽいこと…!!

「さ!さいこうのらいぶにします!ききにきてください!!」

ブチッ!
反射的にマイクのスイッチを切ってしまった。
大したことも喋っていないのにぜえぜえと息が上がる。
そして我に返ったのは三秒後。

「フィル!すげえカッコ良かったぞ!」
「ホントホント!びっくりしちゃった!」
「見事に言い切ったねい。」
「ああ、よかったぞ。」
「くくっ、ハッパかけりゃあれだけ言えるんじゃねえか。」

や っ て し ま っ た ! !
あああもう絶対先輩のせいだ!私何言った!?最高のライブ!?初心者の分際で何てことを…!!

「サササッチせんぱい、わたしあんなこといっちゃったんですけどどうしたら、」
「大丈夫だって。その言葉通りにしてやろうぜ。」

楽しそうに笑うサッチ先輩に今の私が安心できるはずもなく、ただただ明日が不安になるばかりだった。
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