「どうだ白ひげは。そろそろ見切りをつけたころか?」

いつもの教室に向かう途中。
会って早々失礼なことを言ってきたのは一応私たちのライバルらしいバンドのリーダー、ロー先輩。
部室へ向かう途中だったのか珍しいことに残りのメンバーの人たちも一緒だ。

「い、いえ…今日も練習しに行きますし…。」
「チッ。」
「おいロー、やめないか。」

ああ、思いっきり舌打ちされた…。
ドレーク先輩って絶対苦労してるよね、このバンドの人たち濃い人多いしまとめるの大変そう…。

「ボニーからあの話聞いたけどよ、今どうなんだ?お前あいつらと上手くいってんのか?」
「だ、大丈夫です。曲は変わっちゃいましたけど。」

というかアプー先輩も話ややこしくしたひとりですからね、先輩の一言のせいでサッチ先輩が大変なことになったんですから。
…それで本当に迷惑したかといえばそうでもないけれど。
こっそりとそんなことを考えていれば安心したらしいボニー先輩が嬉しそうに笑った。

「そっか。新しい曲は順調か?」
「……。」
「わ、悪い。まああの人厳しそうだもんな。」

はい、厳しいです。
昨日も暴言の嵐でした。
がっくりと肩を落とした私をボニー先輩が慰めてくれる。
ああ、毎日先輩に会いたい…。

「おい、白ひげのボーカル。」

声に振り向くとキッド先輩はむすっとした顔。
わ、私まだ何もしてないんですけど…。

「は、はい。」
「その曲、どっかでやらねえのか。」
「もうすぐゲリラライブやるみたいなので、その時に…」
「ゲリラするのか!フィル初めてだろ?」
「アッパッパ!そりゃいいな!楽しいぜゲリラは!」

超新星の人たちもゲリラやったことあるんだ。
わいわいと楽しそうに話す先輩たちを見ていると私もほんの少し楽しみになってくる。

「それ、いつだ。」
「え?…も、もしかして聴きに来てくれるんですか?」
「!ち、違うに決まってんだろ!何でお前らのライブなんか聴きに行かなきゃならねえんだ!」

こ、この流れで否定ですか…。
逆ギレもいいところでキッド先輩はぎゃんぎゃんと吠えたてる。
面と向かって嫌だと言われ少し寂しく感じていると、他の先輩たちは今だ怒っている風なキッド先輩に向けて。

「えー?キッド行かねえの?アタシ行きたいんだけど。」
「おれはもちろん行くぞ。フィルの歌を聴きたいからな。」
「おれも行く!お前らは?」
「行くぞ。白ひげのゲリラは楽しいからな。」
「おれがライブに行く確率は…98%だ。」

先輩たちの言葉にだんだんと嬉しくなって気持ちが明るくなる。
楽しみにしてくれる人がいる。
日もないし不安なことはたくさんあるけど、その人たちのためにもがんばりたいなって思うんだ。
…でも残りの2%って何なんだろう。
頭の隅でそんなことを考えつつもやっぱり嬉しくて五人の先輩たちと顔を見合わせる。
そして、そのまま全員の視線があの先輩へと向けられた。

「…く、くそ!仕方ねえから行ってやるよ!いいか!行きたくて行くんじゃねえぞ!敵情視察だ!お前らの実力調べに行くだけだからな!」

顔を真っ赤にしながら喚くキッド先輩。
その横でロー先輩とアプー先輩が笑うので、それに対してキッド先輩がまた怒る。
ちょっと強引な感じはあったけど…でもこれで超新星の人たちはみんな来てくれることになった。
こ、これはしっかりやらなきゃ…!

「ありがとうございます。あの、来週の水曜の昼休みにやるんですけどこれまだ秘密になってるので…」
「わかってるって。最前列で応援するからさ、しっかりやりなよ。」
「は、はい!」

頭を下げて先輩たちと別れる。
今日の練習はいつもよりがんばれそうだ。
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