「声が小せえ。喉で歌うなっつったろ。」
「!は、はい。」
「やり直し。…チッ、少しやらねえ間にまた下手くそになりやがったな。」

拝啓、ボニー先輩。
先日先輩に話した通り、バンドの先輩たちは揃って謝ってくれました。
結局prisonの曲はやらないことになって、今は先輩たちが一年の時にやったことのある曲を練習しています。
私は知らない曲でしたが、とても格好よくて聴いているだけで気分が上がる曲です。

「…おい、今手ェ抜きやがったな。なめてんのか?」
「!い、いや!そんなことは」
「ああ?」
「……あります。で!でも!息が続かなさそうだったんです!だから」
「続くようにしろ。もう一回。」

ボニー先輩、大事なことなのでもう一度言いますがバンドの先輩たちは私に謝ってくれました。
もちろんイゾウ先輩もです。
イゾウ先輩は「言い過ぎた、悪い」と謝ってくれました。
そう、言い過ぎたって言ってくれたんです。

「下手くそ。」
「!」
「進歩がねえ。」
「!!」
「二回やったら一回目より上手くなってねえと意味ねえだろうが。わかってんのか?」

今現在、私はイゾウ先輩によるムチしかない指導を受けています。
暴言の嵐です。
言い過ぎたと言ってくれたわりに言葉が鋭いのは私の気のせいなんでしょうか、そうなんでしょうか。

「ゲリラでこの曲をやる。やるのは二週間後だ。いいか、絶対に間に合わせろ。」
「……。」
「返事。」
「…はい。」

そういえば、校内でゲリラライブをやることになりました。
二週間後です。
意味がわかりません。
先輩たちはやったことがある曲だからいいのかもしれませんが、私は初めてやるんですからもっと練習期間を設けてくれてもいいと思います。

「イゾウ、そろそろ休憩を挟んだ方がいい。ずっと続けていては集中力も切れてくる。」
「…チッ。おれが戻ってきたら再開するからな。」
「どこ行くんだ?」
「職員室。担任に呼ばれてたからな。」
「そっか。行ってらっしゃーい。」

担任の先生、どうか三十分くらい引き留めてくださいお願いします。
…はあ、疲れた。
ジョズ先輩のありがたい一言がなかったら下校までやる気だったよ、絶対。

「お疲れさん。まあこの曲はインディーズだから知ってるやつもそんなにいねえだろうし、気楽にやりゃいいよい。」
「それは何よりです…。」

ああ、マルコ先輩の言葉がしみる…。
曲を知ってる人がそんなにいないっていうのは救いだよね、まああの先輩のせいで気楽にできるかどうかはわかりませんが…。

「あ、ゲリラっていってもちゃんと宣伝はするからね?前日の昼に放送室乗っ取ってぼくらで告知するんだ。」

ちょ、ハルタ先輩…告知なんて人をたくさん呼ぶようなことしなくていいじゃないですか。
それに自分たちでって…私は絶対言いませんからね、何も言いませんからね。

「…あの、人ってどれくらい集まるんですか?」
「そうだなー、まあ部内でやったときより確実に多いんじゃねえか?」

エース先輩、何でそんなに嬉しそうなんですか…。
あのときでも私からすれば相当多かったですからね?あれ以上の人が集まるなんて想像するだけでも嫌だ…。
しかも絶対先輩たちのファン来るよ、絶対そうだよ。
ああ、私イゾウ先輩のファンの人にきっと恨まれる…。

「フィルちゃんがんばれ。ちゃんと上手くなってるし大丈夫だって。おれフィルちゃんと初ゲリラできるのすげえ楽しみにしてんだ。」
「……。」
「ん?どうかした?」

私って単純なのかなあ。
サッチ先輩にこう言われるだけで憂鬱だった気分が晴れるんだ。

「いえ、…がんばります。」

ボニー先輩。
何とかなるように私がんばりますから、もしよかったら私たちのゲリラライブ聴きに来てくださいね。
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