「マルコ先輩!」

いつもの教室にいたのは机に座って眠そうに外を眺めているマルコ先輩。
その先輩めがけてダッシュした私がぴっ、と一枚のプリントを広げてみせると、ゆっくり振り向いた先輩がそのプリントを見て表情を変えた。
…あ、起きたっぽい。

「上出来じゃねえかい。」
「えへへ、全部マルコ先輩のおかげですけどね。」
「おれはちょっと見てやっただけで言うほど何もしてねえよい。がんばったな。」

褒められた…!
見せたプリントはもちろん返却された数学のテスト。
マルコ先輩のおかげでなんと…82点もとれました!やった!
これで何の心配もなく部活が出来るし、いいことだらけだ。

「…も、もっと褒めてもらってもいいんですよ?」
「くくっ…ああ、よくやったな。」
「!」

歌の練習になると滅多に褒めてもらえないから余計に嬉しい。
まあ褒めてくれないのはあの人だけなんですけど…。
でも今日はマルコ先輩がいっぱい褒めてくれたし、どんな暴言でも耐えられそうだなあ。

「あ、そうだ。」
「ん?」
「好きな人ってどうやったらできますか?」
「…はあ?」

不可解極まりない。
そんな顔をしたマルコ先輩からは抜けた声。

「いきなり何だよい。」
「ボニー先輩に雰囲気が合わないってこと相談したら好きな人つくれば?って言われたんです。そしたら雰囲気出るかもって…。ほら、prisonのあの曲って好きな人に向けた歌じゃないですか。」
「あー…。」

あれから私なりにいろいろ考えたんだ。
私の雰囲気が合わないのなら仕方がないのかもしれないけど…そのせいで先輩たちが演奏できる曲が減っちゃうのは嫌だなって思う。
私だって本当は悔しかったし…私の大好きな曲だ、どうせなら歌えるようになりたい。
マルコ先輩は常識人だし頼りになるからと訊いてみたんだけど…あれ?マルコ先輩?

「どうしたんですか?」
「いや…フィル、お前…」
「何ですか?はっきり言ってもらって大丈夫ですけど…。」

誰かさんのおかげで慣れてるしね。
何か言いたげにちらりと私を見るも一向に言う気配のないマルコ先輩にそう言うと、マルコ先輩はしばらくあとにはあ、と深いため息をついて。

「じゃあ言うが…お前、サッチが好きなんじゃねえのかい?」
「!!?」

…わ、わたしが?
さっちせんぱいを?すき?

「ま、まるこせんぱいなにいってるんですか?びっくりしたなあきゅうにそんなこといわないでくださいよあーもうほんとうにびっくりし」
「わ、悪い、だから落ち着け。」

珍しく焦った様子のマルコ先輩になだめられどうにか落ち着きを取り戻したものの、頭の中はさっき言われたことでぐるぐるとしている。

「てっきりそうだと思ってたよい。違うのか?」
「……。」

ち、違うのかって言われましても…。
そんなの考えたことないしわからないですよ。
…ま、まあサッチ先輩は格好いいし優しいし男前だし笑顔に癒されるし何回も元気もらうし私のことたくさん褒めてくれるし…ってあれ?な、なんだろ、わたし、

がらっ。

「お疲れー。お、ふたりだけって珍しいな。」
「!!」

教室に入ってきたのはなんと話題の人物。
サササッチ先輩!タイミング悪すぎです…!

「ハルタとエースは?」
「職員室。エースが日直でハルタはその付き添いだよい。」
「そっか。…フィルちゃん?どうかした?」

すたすたと私の近くまで来てひょいと顔をのぞきこまれる。
そ、その顔やめてください…!

「まあ聞け。フィルの数学のテスト、82点だったんだよい。」
「本当か!?」

サッチ先輩の顔が一瞬で明るくなって。
それと同時に私の体も硬直する。

「フィルちゃんすげえじゃんか!そっかそっか!よくがんばったなあ!」
「い、いえ、」
「ひひっ、お疲れ。」

いつもの笑顔で私の頭を撫でる先輩。
何の混じりっ気もない、私にいつも見せてくれる表情。

「…まるこせんぱい、」
「ん?」
「せんぱいのいうとおりみたいです。」
「ほらな?」

何の話?
不思議そうに問うサッチ先輩にマルコ先輩は秘密だ、と楽しそうに返していた。
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