「今日は何の練習するのかなあ。」

学校生活において私が一番体力と精神をつぎ込んでいるであろう部活の時間がやってきた。
違う曲にするって言ってたし…もしかしたらその練習なのかもしれない。
てくてくと通い慣れた廊下を進んで、目の前はいつもの教室。
…さ、ボニー先輩に元気もらったしがんばろう!

がらっ。

「お疲れさまです。」
「「「!!」」」

教室にいたのはマルコ先輩とハルタ先輩、そしてエース先輩。
三人とも机や椅子に座って何か話をしているといういつもの光景。
…なのに、私の顔を見るなりびっくりした顔をされて。

「あの…、っ!?」

ハルタ先輩とエース先輩が慌てたように私のところまで走ってきたかと思えば、次の瞬間にはその場で正座をしてきたのだ。

「ど、どうしたんですか?」
「フィルごめん!本当ごめん!」
「すまねえ!おれらが悪かった!」

私が呆気にとられている間にも先輩たちは謝罪を繰り返している。
ちょ!?土下座なんてやめてくださいよ!

「せ、先輩やめてくださいって!というか何で…」
「フィル、悪かったよい。すまねえ。」

マ、マルコ先輩まで…!
土下座まではされなかったものの、私の目の前に立ってものすごく申し訳なさそうな顔をされた。
な…何がどうなってるんだ!?

「先輩、どうしたんですか?」
「お前が来る前に超新星のドラム…ボニーか、そいつが来たんだよい。」

マルコ先輩が話始めるとハルタ先輩とエース先輩はやっと土下座をやめてくれた。
…正座待機だけど。
で、でもボニー先輩?何で?

「それで…?」
「…めちゃくちゃ説教喰らった。」
「へ?」
「後輩泣かすようなことしてんじゃねえ、アンタらの反応がどれだけフィルに影響与えてんのかもわからねえのか?次似たようなことしやがったら無理矢理にでもアタシたちのバンドに引き入れるからな…って言われたんだよい。」

ボニー先輩強すぎ…!!
けどそっか…それで先輩たちこんなに謝ってきたんだ。

「悪かった。もう同じようなことは二度としねえよい。」
「すまねえ。おれフィルのこと何も考えてやれなかった。」
「フィルごめんね。だから超新星のところ行かないで?白ひげにいてよ。」

立ち上がったハルタ先輩とエース先輩も続けて謝罪をしてくる。
尊敬する先輩三人が初心者丸出しの私に頭を下げるという奇妙な光景だ。
わ、私もうそんなに気にしてないんだけどなあ…。

「あの、もういいですから。私そこまで気にしてないですし…。」
「本当に?」
「おれらとやりたくねえって思ってねえか?」
「思いませんよ。私と曲の雰囲気が合ってなかっただけですしほら、違う曲」
「あー!!」

びっくりして振り向くと、入り口前にいたのは血相を変えているサッチ先輩で。
ま、まさか…

「…サッチ先ぱ」
「よかった!いた!いてくれた!本当よかった!」
「ひゃ!?」

ちょ…先輩!?は、放してください!
先輩は私を目一杯抱き込むとああよかったとしきりに呟いている。

「サ、サッチ先輩、あの、」
「本当ごめんな?あの時のフィルちゃんすげえ楽しそうにしてたのにおれ…本当最低だった。歌、すげえきれいだったぜ?嘘じゃねえ。あー…本当いてくれてよかった。」

はあ、と底から深い息を吐き出した先輩はやっと私を放してくれた。
いつの間にか来ていたのか、サッチ先輩の後ろにはイゾウ先輩とジョズ先輩の姿もある。

「あのな?さっきおれらのところにローとキッドが来たんだ。フィルちゃんがおれらともう一緒にやりたくねえから超新星に入れてくれって頼みに来たぞ、って…。」

ボ、ボニー先輩の時より話が大きくなってるんですけど…。
違う心配をする私をよそに、サッチ先輩はすごく辛そうな顔をして話を続ける。

「嘘だって思ったぜ?けどあんなことしちまったしさ…それであいつらのとこ行ったらフィルちゃんいねえし、アプーのやつが後輩泣かすとか最低だななんて言うしよ…はあ、いてくれて本当よかった…。」
「フィル、…辛い思いをさせてすまなかった。」
「ジョズ先輩…」

というか超新星の人たち話大きくしすぎじゃないか?
何か私よりも先輩たちの方が元気ないしどうしたらいいんだろう…。

「フィルちゃん、頼むから白ひげにいれくれよ。おれらと一緒にやろ?な?」
「えっと…」
「フィル」

何て言ったら普段の先輩たちに戻ってくれるのかなと考えていた私を呼んだのはイゾウ先輩。
ぱっと顔をあげるとイゾウ先輩は私を見ていたけど、そのあと気まずそうに視線を外して。

「あいつらのところには行くな。それと…少し言い過ぎた、悪い。」

何だか本当に調子が狂ってしまう。
先輩たちのこんな姿、初めて見た。
でも先輩たちがこんなに私のことを必要としてくれていて、それにこんなに大事に思ってくれてるんだってわかったし…超新星の人たちには少し感謝しなきゃね。

「あの、先輩。」
「…何だ。」
「超新星の人たちの話、ほとんどが嘘ですよ。」

揃って間抜けな声を出した先輩たちに私が笑う。
そのあとは下校時間になるまでずっと先輩たちと話をしてたんだ。
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