「じゃあな、おっちゃん。ありがと。」
「楽しかったです。また来ます。」
「おう、いつでも…、!ちょっと待て!」

そう言ったヨーキさんはどたばたと走って店の奥に行っちゃった。
よくわからなくて先輩の方を見ると、先輩も同じだったらしくふたり揃って首をかしげる。
…あ、戻ってきた。

「お嬢ちゃん、手え出しな。」
「え?…わっ!」

か、かかかかわいい…っ!!
何これ…めちゃくちゃかわいいんですけど!?

「おー、ラブーンの携帯ストラップじゃん。」
「しかも限定版だぞ?白ひげの期待の新人におれからのプレゼントだ。」
「い、いいんですか!?」
「もちろんだ!どうだお嬢ちゃん、この愛くるしい目に丸みのあるフォルム…かわいいだろ!?」
「は、はい!すっごくかわいいです!」
「だろだろ!?だがしかし実物はもっとかわいいんだこれが!サッチ、お前の分もあるぞ!」
「おっちゃん、ありがとな。」
「代わりに、…大事に育ててやれよ?」
「もちろん。」

サッチ先輩はそう言いながら私に向けて片目を瞑ってくれた。
先輩は本当、どこまでも優しいんだ。

「ヨーキさん、ありがとうございました!」
「おう、また来いよ!」

にかっと笑ったヨーキさんに見送られて店を出た。
私の携帯にはさっきもらったばかりのラブーンのストラップが付いている。
ヨーキさんの言う期待の新人にはほど遠いけど…近づけるようにがんばらなくっちゃ!

「フィルちゃん」

携帯から視線を外してぱっと顔を上げると、サッチ先輩が自分の携帯を見せながら。

「ひひっ、お揃いだ。」

ーー


「フィル、朝からやけに機嫌良かったよね。何かあったの?」
「えっとね…内緒!」
「はいはい、まあ幸せそうで何より。今から部活なんでしょ?がんばってね。」
「うん、行ってきまーす!」

私の上機嫌っぷりに苦笑する友だちに手を振って教室を後にする。
いつもの場所に向かう足取りは軽やか。
ついでに言えば鼻唄のおまけ付きだ。

(サッチ先輩とお揃い…っ!)

しかも先輩ってばあんな笑顔付けて言うんだよ!?先輩、そんなの反則です…!!
憧れのサッチ先輩とお揃いかあ…幸せすぎてどうにかなっちゃいそうだよ!
ヨーキさんありがとうございます!私、期待に少しでも応えられるようにがんばりますから!!

(テスト明け一発目は何するのかなあ。…まあ今日はどんな鬼練習でも耐えてみせますけどね!)

がらっ。

「お疲れさま、で……」

扉を開けて固まる。
教室内には3人の先輩がいた。
マルコ先輩にハルタ先輩、それからエース先輩。
まあマルコ先輩はいいとして…あとのふたりの近さはおかしい。
扉を開けたら視界が先輩の制服でいっぱいだったもん、いくらなんでもおかしい。
ハ、ハルタ先輩にエース先輩、そんな所に立ってたら私中に入れないんですけど…。

「お疲れフィル。」
「今から持ち物検査始めるぞ!」

も…持ち物検査あ?
何で?どういうこと?なぜ今?
常識人の代表マルコ先輩、これって何なんですか!?
そんな所で傍観してないで助けてくださいよ!

「言われたもん見せりゃいいだけだよい。」
「は、はあ…。」

助けを求める私の視線は無視だ。
まるで見世物を楽しむみたいに頬杖をついたマルコ先輩が笑う。
と、とにかく従うしかないか…。

「まずは…通学鞄からだね。」
「これです。」
「次、学生手帳!」
「はい。」
「筆箱。」
「はい。」
「携帯!」
「はい。」
「…終了。」
「はい、…え?」

お、終わり?
早くない?

「だから、もう終わりだって。」
「何してんだよフィル、もう通っていいぞ。」

心なしか残念そうな顔をした先輩たちの間を抜けて、マルコ先輩の近くに座る。
…な、なんかふたりで話し込んでるんですけど…。

「くくっ、お疲れさん。」
「な、何なんですかさっきの…。」
「まあこっちの話だ、心配しなくていいよい。」

こっちの話って…さっきの持ち物検査に何の意味があったんだ?
まあ怒ってる感じじゃなかったし、大した内容でもないから別にいいんだけど…。

「それよりテスト、ちゃんと出来たのかい。」
「!先輩のおかげでいい感じだったんです!先輩が私用に問題つくってきてくれたじゃないですか、あれと同じ問題が何問も出てて…」

がらっ。

「…、揃ってるな。」

入ってきたのはイゾウ先輩とジョズ先輩、それにサッチ先輩。
先輩は携帯をズボンのポケットに入れているらしく、先輩が歩く度に外に出ているストラップか揺れている。
…あ、だめだこれ嬉しいのが顔に出ちゃうから気を付けないと。

「全員追試はねえもんとして…今日は次やる曲を聴く。」

「全員」の時にイゾウ先輩と目があってしまい背筋が伸びる。
で、でも今回は自信あるから大丈夫です!
心の中で反論しつつ、ジョズ先輩のパソコンの前に集まれとのことなので私も移動を開始。
一番前の特等席は私とハルタ先輩だ。
新しい曲かあ、何かどきどきしてきた…っ!

「じゃあ…流すぞ。」

…あれ、この曲って。

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