「時間だ、筆記用具置けよ。テスト回収するぞー。」

今日はテスト期間一日目。
終了を告げるチャイムが鳴って、教室のあちらこちらから脱力したため息やテストの問題に関する話が聞こえる。

「…よし。今日はこれで終わりだからな、気を付けて帰れよ。」

先生の言葉に次々と教室内から出ていく生徒たち。
友だちもこの後何か予定があるらしく、立ち話もそこそこにそれじゃあと教室を出ていった。
…、え?
私は帰らないのかって?
いや帰るよ、ちゃんと帰るんだけど…

(こんな時間から家に帰れるとか新鮮…っ!)

そうなんだ。
テスト期間中はもちろん部活はないし先生の採点なんかもあるから、テストが終わったら生徒は皆帰る決まりになっている。
私の場合今日の今日までひたすら部活漬けだったせいか、お昼過ぎに下校だなんて珍しすぎて体が慣れてないのだ。

(まだ昼過ぎだよ!?帰ったら何しよう…!)

テスト勉強はちゃんとする前提で考えたとしても、自由に使える時間はいつもに比べてたっぷりある。
普段と全く違うリズムのせいで何だかそわそわするし、わくわくするし…とにかく落ち着かない。

(…よし、とりあえず帰ろうかな!)

荷物をぱぱっと鞄へ仕舞い、足取り軽く教室を出る。
そのまま階段を目指す途中で、ふと感じる物足りなさ。

(部活、ないのかあ…。)

あれだけ毎日やってきたことが急になくなるんだから違和感を感じてしまうのは当然と言えば当然だろう。
入部は半強制みたいなものだったけど…練習したり先輩たちと過ごしたりっていう時間は私の中でかなり大きな存在になっているらしい。
ぽっかりと穴が開いた気分ってこんな感じだろうか。

(…あ、)

目の前には階段。
下りると最終的には下駄箱に着く。
今から帰るんだからもちろん下りないといけない。
だけど。

ーー


「ああ、何で上ってきちゃったんだろ…。」

私が選んだのは上りの階段。
先輩たちは1年生よりテスト教科が少ないって言ってたから帰っていること間違いなしなのに、上りの階段。
ほんのちょっと期待していつもの教室をこっそり覗いてみるも…やっぱり誰もいなくて。
もう大人しく帰ればいいんだけど、先輩たちや部活のことを考えてたら何だかうずうずしてきたというか…とにかく部活に関わる場所に行きたいって思っちゃったんだ。
…これ聞いたら先輩たちはびっくりするだろうな(特にイゾウ先輩とかイゾウ先輩とかイゾウ先ぱ…)

「…あれ?」

部室のある6階まで上ってきたところではたと気がついた。
音が聞こえる。
小さいけど…確かに聞こえる。
リズムを刻む音に、時々響く高い音。
ドラムだ。
それがわかった瞬間急にどきどきしてきて、期待してしまって。
違うかもしれないとは思いつつも、そこに向かう足取りはいつもより早い。
部室のドアを静かに開けて中の様子をうかがうと、音は奥の部屋から聞こえてくるのがわかった。
何でこんなにどきどきしてるんだろう。
そう思ってしまうくらい心臓がうるさい。
音が大きくなるのに比例するみたいに私の心臓の音も大きく、早くなる。
壁に隠れながらそうっと中の様子を見ると、そこにいたのはやっぱり私が想像していた人だった。

- ナノ -