「ハルタ、ここの英文ってどう訳すんだ?」
「…これ授業でやってたじゃん。」
「このとき眠くて頭回ってなかったんだって。な?」
「まあいいけど。…いい?この文はまず…」

私の後ろではエース先輩がハルタ先輩に教えを願っている。
この前聞いた話だとエース先輩は英語が苦手みたいで、よくハルタ先輩に教えてもらうんだって。
まあエース先輩が英語で流暢に話してる姿は想像できなかったから予想通りと言えばそうなのかな。
…けど、私みたいに欠点とるような危うさはないらしい。

「フィル、単純な計算ミスが勿体ねえ。解き方自体は合ってるからそこだけ気を付けろよい。」
「はい。」

ちなみに今日は勉強会最終日。
マルコ先輩から合格をもらい、とりあえず欠点からは免れることができそうだ。

「お疲れさん。残りの時間は休憩な。」
「へ?もういいんですか?」
「最終日だしな。それに…やることやったし大丈夫だろい。」

さすがマルコ先輩ゆるいです…!
くあ、と欠伸をしながら上半身を伸ばす先輩はもう終了モードだ。

「マルコ先生、2週間ありがとうございました!」
「あらためてそう呼ばれると…何か変な気分だねい。まあがんばれよい。」
「はい!」
「それと結果、楽しみにしてるからな。」
「…はい。」
「ひひっ、フィルちゃんお疲れ。チョコいる?」

言いながら、正面のサッチ先輩が鞄から箱を取りだし机に置いた。
中にはきれいな形のトリュフがたくさん入っている。

「わっ、もしかして手作りですか!?」
「当たり。頭使った後にはやっぱりチョコだろ?」

ぱちりとウインクを決める先輩。
このタイミングでチョコとか…先輩最高です!

「やったあ、ありがとうございます!」
「サッチ!おれも食」
「エースはこれ解いてから。サッチ、残しといてね!」
「はいよ。」

…おいしいっ!
先輩、この前もジュースを奢ってくれたんだ。
結局この2週間、先輩は私とマルコ先輩の勉強風景を見てるだけだったから本当に不思議で仕方なかったけど…それ以外はいつも通り。
ここぞというときに差し出される先輩の甘いものと笑顔はつくづく最強だって思うよ…。

「ほらよ、イゾウとジョズの分。」
「ああ。」

イゾウ先輩とジョズ先輩の書き換えはもう終わってて、残りの日はパソコンを相手にしてた。
私はてっきり部活に関することだと思ってたんだけど…

「…チェックメイトだ。」
「チッ。…まあこれまでの結果合わせりゃ五分五分だからな。」

…チェスやってるんだよ、この人たち!
来週からはテストが始まるのにその勉強は全くしようとしないあたり、基本的に先輩たちはみんな頭がいいんだろうなと思う。

「……終わった!チョコ!」

がたりと音をたてて椅子から立ち上がったエース先輩はすぐさま移動。
それを見たハルタ先輩も笑いながらこちらへやって来た。
最近は勉強会が主だったから、こうやって先輩たちとひとつの輪になるのは久しぶりな気がする。

「…そういえばフィル、最近仲良いみたいだね。」
「誰とですか?」
「超新星のメンバー。何度か見たよ?喋ってるとこ。」

その言葉が出た直後、ひしひしと感じる突き刺さるような視線。
だ、だめだ…今あの先輩の方見ちゃだめだ!

「おれもこの前見たな。まだ勧誘されてんのかい。」
「!で、でも軽くですよ!それに大体は普通に話してるだけです!」
「…あ、おれが見たときはキッドに何かもらってたぞ?」

エース先輩まで…!
…生徒数多いのに結構見られてるものなんだなあ。
でもあの先輩たち目立つし…遠目で見てもわかるから仕方ないか。

「えっと…飴ですよ。出会ったら大抵くれるんです。」

投げつけるようにくれるんです。
…そこまでは言わないけどね。

「前みたいなことはないのか?」
「、はい。本当に普通に話すくらいで」
「フィル、あいつらと仲良くするのは勝手だが…」

ひっ!?
イゾウ先輩わかってます肝に命じてます勧誘は全部断ってますから…っ!

「…こっちも忘れてやるな。」

…あ、あれ?勧誘の話じゃない?
忘れるな、って…先輩たちといる時間の方が確実に長いし忘れようがないよね。
それともテスト勉強の話?欠点とらないように集中しろってこと?
な、何かよくわからないな…。

「…どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。…なあ、サッチ?」

サッチ先輩は何も答えず、無関心そうにチョコを口の中に放り込んだ。

- ナノ -