「あ、フィルじゃん。」

テスト1週間前。
今日からはどの部活もお休みなんだ。
当然授業が終われば生徒は下校するんだけど私は別で、放課後は先週に引き続きマルコ先生による特別授業が待っている。
いつもの教室に向かおうとしていた私を呼び止めたのは、ピンクの髪がとってもきれいな先輩。

「ボニー先輩!」
「よ、お疲れ。帰らねえの?」

ボニー先輩はこうして出会う度に気さくに話しかけてくれるんだ。

「これから勉強会するんです。数学がちょっと危なくて…。」
「へえ。あたしも数学は苦手だな、頭使うのヤだし。」

苦笑いしてる先輩もかわいい…っ!
格好いいしかわいいし、先輩は私の憧れなんだよね。

「けどどこ行くんだよ、自分の教室とかでしねえの?」
「マルコ先輩に教えてもらうんです!他の先輩もいますよ。」

先週に課題を出されたので、今日の勉強会はその答え合わせから。
マルコ先輩、わざわざ私用に問題を作ってくれたんだ!

「ふーん、結構後輩想いじゃん。フィル、大事にされてそうでよかったな!」
「違いますよ…私が欠点とって部活休むと困るじゃないですか、それでですよ。」

もう圧力かかってるからね。
他の教科は落ちないと思うけど…もしもの時が恐ろしくて家でちゃんと勉強してるもん。

「要は心配されてるってことだろ?一緒いっしょ!」
「ひゃっ!?」

ばしっと背中を叩かれる。
ちょ、先輩!痛いですって!

「あ、悪い。強かったか?」
「えと、大じょ…」
「フィル、やっと来る気になったか。」

特徴的な低い声にびくりと肩を上げて振り向くと、ロー先輩とキッド先輩がいた。
キッド先輩は私と目が合うとすぐにそらすんだ。
まあ多少いざこざもあったし印象が良くないのかもしれないけど…地味にへこむんだよね、これ…。

「どうも…。」
「違うっての。フィル見かけたから普通に話してただけだよ。」

…ロー先輩、舌打ちすることはないでしょ。
無事終わりを迎えたかと思った勧誘は、実はまだ続いていたりする。
さすがに前みたいな強引さはないんだけど、まだ当分は諦めてくれそうにない。
勧誘される度に言っているであろう私なんか入れても何の得にもならないですという話は、どうしてか受け入れてもらえないんだ。

「…そのうち引き抜いてやるから待っていろ。」

いや、これまでに何度も断ってますから…。
肩を落とした私を見てボニー先輩は苦笑してる。

「まあ…本当にフィルが来てくれたら嬉しいけど。な、キッド。」
「!き、急にふるんじゃねえ!」

最初のころ、キッド先輩には目もそらされるしてっきり嫌われてると思ってたんだ。
けど。

「白ひげのボーカル!せいぜい喉やられねえように気を付けやがれ!」
「!わっ、」

どうも嫌われてはないらしくて、こうして出会ったときは大抵飴を(投げつけて)くれるんだよね。
ちなみにキッド先輩は私のことを名前じゃなくて白ひげのボーカルって呼ぶんだ。
というか苺みるく味ってかわいいな…。

「ありがとうございます…。」
「…くくっ、そういや昨日コンビニで買ってたな。」
「キッドが苺みるくって…似合わなさすぎだろ!」

ロー先輩もボニー先輩も遠慮する気配すらなく笑ってる。
いや、私も意外だなとは思いましたけど…さすがに本人の前じゃ笑えません。

「!何買おうがおれの自由だろ!おら、さっさと帰るぞ!」

ずかずかって効果音がすごく似合うよね。
…あ、先輩耳まで赤くなってるし…。

「相変わらず面白いな、あいつは。」
「じゃあなフィル、勉強会がんばりなよ。」
「はいっ、ありがとうございます。」

いつもの教室へと向かう私の足取りは軽かった。

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