「…どういうことだ。」

おれたちが出てった教室からは驚きや感嘆の混ざった騒ぎ声が聞こえる。
みんながどんな顔をしているか想像するだけで自然と笑みが溢れた。

「何が?」
「惚けるな。…休みの間、何かしやがったな?」

多少驚くかなとは思ってたけど、まさか中断する程だったなんて。
…気づいてねえだろうし、あの子に教えたらすっげえ喜ぶんだろうな。

「まあね。けど特別なことは何もしてねえぜ?一緒に復習しただけだって。」
「それだけであんなに変わってたまるか。サッチ、いい加減話せ。」

イゾウは少し苛ついているようにも見える。
教え子が違うやつの手で一気に成長したから納得いきませんってか?そうだとしたらお前も割とかわいいとこあんのな。

「…結構たまってたみたいでさ。話、聞いてあげた。」

思い出すのは昨日のあの子の姿。
落ちた視線に震えた声。

「不安で仕方なかったみたいだぜ?だからちょーっと元気づけてあげただけ。」

おれはあの子が溜め込んでたものを吐き出す手伝いをしたくらいで、あとは全部あの子自身ががんばったことだ。

「あ、それから教室でやる理由教えたからな。」
「サッチ!」

思い出したように付け足すと、ただ黙って聞いていたイゾウが少し慌てたようにおれを呼ぶ。
まあ「他に取られたくない」なんて本音、イゾウにとっちゃ恥ずかしくて聞かせたくねえわな。

「この際いいだろ。それからイゾウ、お前もちょっとは素直になりやがれ。」

腰に手を当てわざとらしく指を差してやる。
元はと言えば、こいつがもう少し素直になってあの子を褒めてあげれば済んだ話なんだ。

「…お前らが甘やかしすぎなんだよ。それから」

言うなよ。
釘を刺されてしまい、これじゃああの子を喜ばせることは出来ねえなとひとり苦笑。
もう終わりだと言わんばかりに教室へと入っていくイゾウを見て、おれは。

「…本っ当、素直じゃねえなあ。」

まだまだ当分は直りそうにない。
くつりと笑って、おれはその背中を追いかけた。

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