「ほら、着いたぜ。」

とある教室の前に着く。
先輩がドアを開けると、教室内には先輩の友だちと思われる人が数人。
それに。

「軽音楽部へようこそ。」

ギターやベース、アンプにドラムセット。
他にもキーボードや照明器具など…テレビで見たことはあったけど、こうして実際に見るのは初めてのものばかりが置いてある。

「サッチ、遅いぞー。」
「あれ、その子誰?どうしたの?」
「靴のラインが紺色だから1年生だろ。」

驚いて突っ立っていると、中にいた人たちから次々と声が飛んできた。
や、やっぱりここは何か答えた方が…

「ああ、迷子になってたから連れてきたんだ。」
「!?」

ちょ、先輩!?
確かに迷ってはいましたけど…今言わなくてもよくないですか!?

「あははっ!校舎内で迷子になる子っているんだね!」
「面白いなー、お前!」
「そんな笑ってやるんじゃねえよい、可哀想…くくっ。」
「マルコ、そう言うお前も笑ってんじゃねえか。…まあこれで笑うなって言う方が無理か。」

中にいた先輩たちは盛大に笑ってる。
まわりが先輩ばっかりでただでさえ緊張してたっていうのに、今度は恥ずかしくてたまらない。
…でも、そんなに笑わなくってもいいじゃないですか。
私だって好きで迷子になったわけじゃないんです…!

「お前らなあ、そろそろ…ってうわ!?」

我慢できず、泣き出しそうになった私に先輩が気づいた。
慌てて私の前にしゃがんだ先輩は、とにかく焦ってる様子だ。

「ご、ごめんな!?嫌だったよな、おれも悪かったし…あいつらにもちゃんと言っとくから、な!?だから泣くなって!」

まだ泣いてません。
そう返したいけど、必死に堪えている今言ってしまったら本当に泣いてしまいそうで、私は何も言わないままぎゅっと唇を噛んでいる。

「こら、お前らも謝れ!女の子泣かしたんだぞ!?」

だからまだ泣いてないです。
そう私が心の中で訂正を求めていると、中にいた先輩たちも焦った様子で次々に謝罪してくれた。
おかげで泣くことは我慢できたけど、でもこんな姿を見られてしまってこれ以上この場にいたいなんて到底思うことはできない。
目の前にしゃがむ先輩に背を向け教室を出ようとしたら、急に腕をつかまれ引き留められて。

「ちょ、ちょっと待てって!そんな顔させたまま帰せるかよ!」
「確かにな。新入生の、しかも非の全くねえ女を泣かせちまったんだ。このまま帰られちゃあ、おれの気がすまねえ。」
「同感だねい。」
「うん、ぼくもイヤだな。」
「…あ、そうだ!お詫びに1曲演奏するからさ、聴いてくれよ!」

その案に全員一致したらしく、手際よく準備を進めていく先輩たち。
私、まだ返事してないんですけど…。
ひとり置いていかれた私がぽかんとしていると、最初に出会った先輩が椅子をひとつ持ってきてくれて。

「特別席な。」

優しく笑って私を座らせた先輩は、いそいそとみんながいる方へ向かっていった。

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