「私、部活あるからそろそろ行くね。フィル、また月曜ね!」
「うん、がんばってね!」

友だちが教室から出ていったのを見送り、机に倒れる。

「あー…、この1週間はひどかった。」

ロー先輩にバンドに誘われる事件が発生してから今日でちょうど1週間が経つ。
あのときは当然お断りしたんだけど(そもそも私なんか入れて何の得があるんだ?)、今週はロー先輩と出会う度に「おれのバンドに来い」と言われ続けた。
しかも出会う回数が地味に多いんだよ、絶対仕組んでるよ…。
部活終わりとか先輩たちと一緒にいるときに出会うならまだ安心なんだけど、ひとりのときに出会うのは本当に困った。
ちゃんと断ったとはいえ先輩だから無視はできないし、ロー先輩はただでさえ女子生徒からの人気が半端ない。
となればファンの方々の視線とかさ、いろいろあるわけで…。
私は学校生活くらい穏便に過ごしたいんです!

「…よし、部活行こ。」

大きなイベント事は終わったから部活は火曜と木曜だけになったんだけど(いや、これが本来のスタイルです)、今週はロー先輩のことがあるから一応来いって言われてるんだ。
ちなみに提案者は意外にもイゾウ先輩。
もう隠す必要もないのに場所はいつもの教室だし…イゾウ先輩、やっぱり優しいよね。

「おい、」

ひっ!?
こ、この声は…

「やっと見つけたと思ったら…そっちは3年の教室だぞ。何の用だ?」

ロー先輩…っ!
いや、あなたも2年生でこんなとこいたらおかしいでしょ!

「いや、ちょっと…」
「…まあいい、来い。」
「ひゃっ!?」

腕をとられて歩かされる。
ぐいぐい引っ張られて着いていった先は部室だ。

「あ、ロー!時間かかりすぎなんだよ!」
「まあ残っててくれてよかったじゃん。」
「…相変わらず強引だな、お前は。」
「アッパッパ、違いねえ!」
「今日のその子の巻き込まれ率は…90%だ。」

わ、超新星の人たちだ…っ!
…というか巻き込まれ率って何ですか、もう巻き込まれてますよ。

「ボニーだ!フィル、女の部員は少ないからな、仲良くしようぜ。」
「!はいっ、よろしくお願いします。」

ボニー先輩ってスタイルいいし美人さんだし素敵だなあ。
担当はドラムだし…余計に格好いいよね!

「ドレークだ。前はすまなかったな。」
「い、いえ!大丈夫です。」
「キッドも相当驚いてたみたいだし、結果的に良かったんじゃねえの?」
「アプー!黙りやがれ!」

超新星の人と話すのはこれが初めてだ。
みんな先輩たちに負けず劣らず性格が濃いと言うか何と言うか…。

「…フィル、そこで聴いてろ。」
「え!?」
「目の前で聴きゃあ入りたくもなるだろ。」

…それで私を連れてきたんだ。
いや、それ以前に何度も断ってるし部活に行きたいんですけど…。
でもロー先輩の歌も超新星の人たちの演奏ももう1回聴きたかったし、ちょっとくらいいいよね…?

ーー


(か、格好いい…!!)
「…どうだ、これで入る気になったんじゃねえのか?」

超新星の人たちの演奏はすごく上手かったし、格好よすぎて聞き惚れるくらいだった。
こんな迫力あるステージ見せられちゃったらそりゃファンにもなるよね…!

「フィル、お前が入ることについてはメンバーも全員納得している。だからこのバンドに来い。」

ロー先輩の独断じゃなかったんだ。
…でも私は先輩たちの演奏の方が好きだし、先輩たちと一緒にがんばりたいんだけど…。

「す、すいません。私やっぱり…」
「おれとお前がボーカルをすれば完璧だ。白ひげよりいいバンドになる。」

…何を根拠にそんなこと言えるんだ?
私は入部したての初心者ボーカルなんです!

「…でも、ごめんなさい。私は白ひげの先輩とやりたいんです…。」
「…チッ。なら一度、おれたちとここで歌え。このバンドを味わわせてやる。」
「へっ!?」

な、何言ってるんだこの人!
私…今まで散々入らないって言いましたよね!?

「いや、私はもう」
「一度だけだ。歌えば気も変わる。」
「、わっ!」

また腕をつかまれようとしたら。

「うちのボーカル、返してくんねえかな?」

声に振り返るとサッチ先輩の姿。
その後ろには他の先輩もいる。

「せ、先輩!」
「ひひっ、教室来ねえからみんなで探してたんだぜ?」

よ、よかった…本当どうしようかと思ったよ!
何か先輩の顔見たら急に安心してきた…。

「もー、また勧誘?」
「フィルはちゃんと断ってるだろ!もう諦めろよな?」
「掛け持ちの禁止はしていないがそれは同意のうえで、だ。この場合は違う。」
「…おれは欲しいもんは奪う主義なんでね。」

…わっ、こんなときに余裕な表情でいられるとかロー先輩ってすごいな…。

「迷惑な主義だねい。…フィル、戻るよい。イゾウが大層ご立腹だ。」
「当たり前だろ。来ねえと思ったらこんなところでサボりやがって…まさか勧誘受ける気じゃあねえだろうな?」

こ、恐さに一段と磨きがかかってらっしゃる…!
ごめんなさい、でも決してサボろうとしてたわけじゃないんですって!

「ち、違います!ちゃんと断わりましたよ!」
「…ロー、それにお前ら。これ以上の勧誘は止めな。」
「そ。フィルちゃんはうちのボーカル。他所にゃ渡さねえし、歌わせねえ。」

…何だか嬉しいな。
先輩たち、私があのバンドのボーカルだって本当に認めてくれてるってことだよね。
ちょっと恥ずかしいけど…。

「…ここまで言われちゃ仕方ないね。ロー、諦めな。」
「…チッ。」
「フィル、この話抜きにしてまた話そうな!あたしも見かけたら声かける。」
「またフィルに出会う確率は…」
「同じ学校で同じ部員なんだから出会うに決まってんだろ!」
「時間をとらせたな、すまなかった。」
「また来いよ。次は違う曲聴かせてやるからなあ!」
「は、はい!」

この先輩たちとはいろいろとありそうだけど、その分仲良くなれそうな気がしたんだ。

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