「…あはは!ねえ、フィルも見たでしょ?あのときの顔!」
「と、とりあえずは…。」
「本当すっきりしちゃった!フィル、ありがとね。」

部内の演奏も全部終わって、私たちはいつも練習していた3年生の教室に戻ってきている。
ハルタ先輩の言う通り、私たちの曲が終わるとキッド先輩はあっけにとられたような顔をして、すごく驚いてる様子だった。
本番中、やっぱりどきどきしたけどすごく楽しかったし、やっと先輩たちと一緒にできたことが嬉しくて、私個人としては今日の本番にはちょっと満足もしてるんだ。

「フィル、本番お疲れ!イゾウの歌もいいけど、やっぱりフィルの歌もいいよな!」
「あ、ありがとうございます。」
「喧嘩を買うだけあるじゃねえかい。フィル、上出来だよい。」
「!?け、喧嘩買ったのは先輩たちです!」
「みんな相当驚いてたぜ?フィルちゃんの歌がやっぱり一番だったなー。」
「堂々としていたぞ。よかった。」
「くくっ。ジョズ、お前は父親か何かか?あれくらいで泣くんじゃねえよ。」
「…まだ泣いてはいなかったはずだ。」

ジョズ先輩、実は私の歌ってる姿を見てほんの少し泣いてくれてたんだ。
そこに触れはしなかったけど、すごく嬉しかったなあ。

「なあイゾウ、お前からは何か感想ねえのかよ。フィルの初めての本番だったんだぞ?」

エース先輩ありがとうございます、私もすごく気になってたんです…!
…うん、自分から訊くのは恐いし、ね。

「…フィル。」
「!はいっ、」
「お前は今日、どうだったんだ?」
「へ?わ、私ですか?」
「さっさと答えな。」

どうして私に言わせるんだ?
ま、まあいいけど…。

「…楽しかった、です。すごく。下手ですけど…やっと本番で歌えましたし、先輩たちが演奏中に応援してくれてたのわかりましたし…やっぱり楽しかったです。」

…こ、こんなのでいいのかな。
ちょっと低レベルすぎ?…うん、そうだね。
でも、本当に楽しかったとしか言いようがないからなあ…

「そうか。」
「え?」
「何だ。不満そうな顔じゃねえか。」
「い、いや…」
「イゾウ、不満も何も…結局イゾウは感想言ってないでしょ!ほら、早く教えてよね。」

さ、さすがハルタ先輩だよ。
直球な指摘にイゾウ先輩も折れたみたい。
…先輩、何て言うんだろう。

「フィル」
「!はいっ、」
「まず、自己紹介の時からかみすぎだ。それにおどおどしやがって…なめられて当然だろう。それから、曲が始まって後ろ向くやつがあるか。前見てろって散々言ったよな?相変わらず第一声は弱えし、気分が上がったときもバックを聴きやがらねえ。あと、後半バテやがったな?体力ねえのも相変わらずだ。」

や…やっぱりこうなりますよね!?
わかってたけどほら、ちょっと期待してたんですよ!
今回は前の分までがんばったのになあ…さすがイゾウ先輩、厳し…

「…まあ、下手なりにもよくやった方だとは思うがな。…これで満足か?」
「え?」
「…もう言わねえからな。」

…き、きた、来たよ!
イゾウ先輩にまともに褒められた…っ!!
ちょ…かつてないくらい嬉しいんですけど!?

「おー!イゾウが褒めるとか珍しいな!」
「フィル、よかったね!」
「は、はい!」
「くくっ、この調子でがんばれよい。」
「フィルはよく練習していたからな。イゾウが褒めるのも当然だ。」
「本当だよな。けど、もうちょっと素直に褒めりゃあいいの…に"っ!?」
「下校だ、帰るぞ。」

ーー


(えへへ…!本番も楽しかったし先輩にも褒めてもらえたし…今日は本当いい日だったなあ。)

「フィル、上機嫌じゃねえかい。」
「本当だ。わかりやすいくらい嬉しそうだね。」
「当たり前ですよ!だって、あのイゾウ先輩がまともに褒めてくれたんですから!」
「…そりゃあ、遠回しにおれを非難してるのか?」
「!?ち、違います!貴重すぎて嬉しいんですって!」
「ははっ、確かにな。」

久しぶりに気分がすっきりした下校だ。
先輩たちも楽しそうだし…こういう雰囲気って好きだな。

「…あれ?あそこにいるのってキッドとローじゃねえ?」

校門に誰か立ってる。
少し分かりにくいけど、あの髪色と足の長さからして多分そうなんだろう。

「もしかしてフィルの出待ちじゃない?よかったね。」
「そ、そんなわけないですって!」
「あはは、ごめんごめん。…でも、フィルに用があるのは本当みたいだね。」

よ、用があるって…確かに視線を感じるけど、正直嬉しくないよ。
特にキッド先輩とはちょっと言い合いっぽいことになったし…。

「フィル、心配しなくてもいい。」
「そ。おれたちに任せろってんだよ。」

やっぱり先輩たちは頼もしい…!
そ、そうだよね、私は何も悪いことしてないし…普通にしてればいいんだ。

「ドーモ。お疲れサマです、…先輩。」

キッド先輩ってあらためて見ると大きいよね…。
サッチ先輩やジョズ先輩と同じくらい体格いいかも。

「お疲れさん。…何か用かい。」

おお、マルコ先輩格好いいな…これは友だちがファンになるのも無理ないよ。

「そうっすね。まあおれは…おい、ロー!」
「おいっ、待てよ。」

足の長い先輩…ロー先輩が、一直線に私の前まで歩いてきた。
周りからの制止なんて完全無視だ。

「…ど、どうも…。」

こ、この人本当足長いな…完全にモデル体型だよ。
でも歌はすごく上手かったよね、何かイゾウ先輩とはまた違う色気があるというか…うん、とにかく上手かった。
うう、一体何言われ…

「来いよ、おれのバンドに。」

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