「せ、先輩たちってどこだろ…。」

ついにやって来た放課後。
部室集合なので来てみると、当然なんだけど人が多い。
私は背が大きい方でもないし(むしろ小さい)、さらに部屋も広いせいで先輩たちを見つけるのはなかなか大変だ。

「…やっぱり見つけやすいのはマルコ先輩かな。えっと、金色の…わっ!?」

や、やっちゃったよ!
後ろ注意してなかった…!

「ご、ごめんなさ…!?」

こ、恐っ!
というか…この人ってリハーサルのとき、私たちのひとつ前に歌ってた人じゃんか!

「…気を付けろよ。」
「!は、はいっ、」

ちょ、目の下の隈ひどすぎません!?
…でも相変わらず足長いよね、この人…。

「お、いた!フィル、こっちこっち!」

聞きなれた声がしてその方向を見ると、予想通りエース先輩が見えた。
他の先輩も揃っていたので、ひと安心して駆け寄る。

「あはは、また迷子になってたの?」
「ち、違いますよ!人が多すぎでわからなかったんです。」
「フィルは背、小さいもんね。」
「……でも、ハルタせんぱ」
「フィル?」

ハ、ハルタ先輩その笑顔が恐いですって!
何かイゾウ先輩と近いものを感じるよ…。

「な、何でもないです…。」
「くくっ。フィル、ハルタは怒らせねえ方が身のためだぜ。」

…イゾウ先輩が言うなら本当なんだろうな。
うん、ハルタ先輩は見て癒される先輩だからね、余計なことは断じて言わないようにしよう。

「演奏するときはあそこに移動な?それ以外は適当に座ってればいいんだ。」
「演奏順は…まあ最後の方だろい。自己紹介はそのときにするだろうから、それまでゆっくり考えときゃいいよい。」
「は、はい…。」

ぜ、絶対マルコ先輩面白がってるよね。
…やっぱり先輩たちが上手いから最後の方になるんだろうな。

「ほら、そろそろ始まるぜ!ジョズの方見とけよ。」

あ、ジョズ先輩はやっぱり進行役なんだ。
隣にいる人って…副部長さん?
そういえばこの人も足長い人と一緒のバンドだったような気がするけど…。

ーー


「…フィルちゃん、同じボーカリストとしてさっきの歌の感想は?」
「…先輩、私だって怒るときくらいありますからね。」
「わ、ごめんって!」

感想ですか?…ええ、すっごく上手かったですよ!
私より声も響いてるし力強いし、立ち姿も格好よかったですよ!
くそう、サッチ先輩にまでこんな風にからかわれるなんて…

「…ま、おれはフィルちゃんの歌の方が断然好きだけどな。」
「へっ?…せん、ぱい?」
「これ本当。…ほら、次始まるぞ。」

ちょ、さっきの言い方にしても今の笑顔にしても…ずるくないですか!?
サッチ先輩の言葉と笑顔は私にとって効果抜群なんだからもうちょっとそのことを自覚し…いや、自覚されても困るな、うん。

(男女問わず人気あるはずだよ、これじゃ…。)

隣に座っているサッチ先輩は、余裕そうな表情で次のバンドの演奏を聴いている。
先輩は、今私が先輩たちの人気のすごさで悩んでいることなんて知らないんだろうな。

「…フィルちゃん、あんまり緊張してねえ?」
「!えっ、」
「…何となくそう思ったんだけど、どう?」

びっくりしたー…!
急に振り向くんだもん、焦っちゃったよ。

「えと、昨日は緊張してましたけど…今日はそんなにです。」
「やっぱり。でも何で?」
「…前の本番があんなのでしたし、それに今は歌よりも自己紹介の方が…。」

前の本番に比べたら、緊張の度合いが全然違う。
それに、あれ以上の失態はもうしないだろう(というか絶対したくない)ということを考えると、気持ちはずいぶんと楽だった。
それより…私の問題は自己紹介だ!
演奏が始まったら先輩たちに視線が行くけど、自己紹介の時は私に視線が集中するわけだし…ああ、考えただけで嫌だ…。

「ははっ、そっか。」
「笑えないですよ、もう…。」
「大丈夫だって。昨日もみんな言ってたけど、おれたちがバックについてりゃ何も問題なんてねえからさ。」

そう言って軽く頭をひと撫ですると、サッチ先輩はまた演奏に目を向けた。
先輩はさっきと変わらず余裕そうな笑みを浮かべてる。

(…あー、本当ずるいなあ…。)

何に悩んでるかなんて、やっぱり気づかないんだろうな。

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