(こ、これが歓迎祭かあ…!!)

朝9時の開会式で始まった歓迎祭。
新入生の歓迎が主な目的らしいけど、1年生だけじゃなくて2年生や3年生の先輩もみんな、みんな楽しんでる。
舞台上で次々行われるパフォーマンスは本当に見ていて飽きないし、すごく面白いんだ。
…頭痛とかがなかったらもっと楽しめるのにな。

(…あ。あの人って、昨日私たちの前にやってたバンドの…)
「フィルちゃん。あいつ、あの…髪長いやつな。昨日おれたちの前にリハーサルやってたバンドあっただろ?そのメンバーの一員なんだぜ。」
「わ、私も思いました!でも、今やってる部活って…」
「そ、タロット部。そんな部もあるとかすげえだろ、この学校。」
「以外と人気あるらしいな!部員も結構いるみたいだし!」
「女の子からも人気って聞いたよ?あのミステリアスな雰囲気がいいんだってさ。」

私はバンドの先輩たちに誘われて一緒に見ることになったんだ。
その方がバンドとして行動しやすいし、もし何か連絡事項があってもすぐ全員に伝えられるしね!
…まあ、さっきからイゾウ先輩の姿が見当たらないんだけど…私なんかがあのお方の心配をしてもするだけ無駄ですよ、うん。
それにしてもあの人すご…あ!また当てちゃったよ!

「…でもさフィル、思ってたより余裕そうだね。」
「、…何がですか?」
「だって、昨日見てただけでリハーサルしてないでしょ?ぼく、バカみたいに緊張してるフィルを期待してたんだけどなあ。」
「ば、ばか!?」
「くくっ。…しかもイゾウが歌っちまったからねい。相当ハードルが上がったんじゃねえかい?」
「!!」
「ま、フィルの歌ならリハーサルやってなくても大丈夫だって!おれ、好きだもん!」

だ、大丈夫って…そんなわけないでしょエース先輩!
それにハルタ先輩も…この私のどこが余裕そうに見えるっていうんですか!
緊張しすぎてほとんど寝れなかったくらいですよ!?
…そうだよ、何でこんなに緊張してるのかって言ったら、全部イゾウ先輩のせいなんだって!
無茶苦茶な理由で私はリハーサルに出るなって言われて、仕方がないから舞台袖で見てたんだ。
それはまあ許せても(許したくないけど)…問題はそのあとだよ、そのあと!
イゾウ先輩…歌っちゃったんだよ!それも1曲全部通しで!
歌い終わったあとの歓声やらどよめきやら黄色い声やら…そりゃもう本当にすごかったんだからね!?
あとで先輩たちから聞いた話なんだけど…このバンドって学校内でもすごく人気があってファンの数(ほぼ女の子)も多いんだってさ、こんな時に知るような情報じゃないよね絶対。
そ、そりゃあまあ先輩のすごく上手い歌聴けたし、私にとってはお手本を見せてもらってるようで勉強になったけど…その代わりあの人は見事にハードル上げちゃってくれたんだよ、そんなの頼んでないよ本当容赦ないよ…っ!!

「…お前らなあ、そんな追い詰めてやんなよ。フィルちゃん…本当に気負いやすいんだからな?」
「…フィルにとってはこれが初めての本番だ。あまりプレッシャーをかけない方がいい。」
「ジョズが言うなら仕方ねえな!」
「「同じく。」」
「おれは!?おれならいいのかよ!」

…先輩たちの会話って舞台でやってるパフォーマンスより面白いかも。
密かにそう思っちゃったことは黙っておこう、うん。

「…はあ、参るぜまったく…。」

こんなこと言ってるけど、先輩たちはすごく仲がいいんだよね。
…あ、さっきのこと謝っとかなくちゃ!

「あ、あの。サッチ先輩。」
「んー?」
「えと…心配かけてすいません。もっと私が上手く歌えてて自分に自信があったらよかったんですけど…。」
「…おれ、言わなかった?フィルちゃんの歌に勝てるやつらなんていねえよ。あとはほんの少しの自信だけ、な?」

…サッチ先輩の笑顔、やっぱりいいなあ。
さっきまで緊張してたし色々考えてたけど…不思議と落ち着いてくるんだよね。

「…はい!あ、ありがとうございます!」
「ん、わかればよし。…けどな、」

…う、先輩のこの表情って…

「おれが心配してんのは、フィルちゃんの体調だよ。」

先輩、まだ気にしてたんだ…。
…確かに、今日も朝から変だった。
頭も体も重かったし、昨日と違うことをあげるとすれば…少しだけど熱があったこと。
会場が盛り上がって歓声があがると、正直頭痛がひどくなる。
…でも、こんなこと絶対先輩たちには言いたくないんだ。

「なあ、本当に大丈夫か?」
「き、昨日も言ったじゃないですか!気にしすぎですって!」
「おれは本当に心配してんの。フィルちゃん、思ってることなかなか言わねえし。」
「そう見えるだけですよ!そ、それに熱もないですし!」
「…フィルちゃ」
「本当に大丈夫なんです!お…お手洗い行ってきます!」

うう、嘘ついちゃったし半分逃げてきちゃった…!
先輩ごめんなさい…でも先輩に詰め寄られたら本当のこと言っちゃいそうでだめなんです。
…これ以上変に思われないようにちゃんと我慢しなきゃ。
ただでさえ昨日も同じようなことがあったのに…しかも今日が本番なんだよ?
あー、もう!しっかりしてよ自分…っ!!

「フィル、」

おわっ、イゾウ先輩だ!
どこ行ってたんだろ…。

「は、はいっ。」
「……いや、何でもない。」

どうしたんですか。
そう訊けなかったのは、先輩が昨日と同じ表情をしてたからだ。

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