今日は特別練習会2日目。
9時から17時まで、お昼休みと軽い休憩を挟みながらイゾウ先輩の強烈な指導のもとに練習してるんだ。
まあ、ほぼ(というか完全に)私のために行われてる練習会みたいなものなんだけど…先輩たちは親身になって付き合ってくれる。
先輩たちは本当優しくて、感謝してもしきれないくらい。
そんな先輩たちに私ができるお返しといえば、もちろんひとつしかないよね。
というわけで、厳しく指導されつつも懸命に練習に励んでいたわけなんだけど…。

「フィル、腹へらねえの?」
「…へ?」
「何か食べねえと、次練習始まったらもたねえぞ!」
「エースは食べ過ぎだけどね。でもフィル…お昼もそうやって水分摂ってただけしゃなかった?」
「そ、そうですけど…。でも大丈夫ですよ?」

お腹が空かないっていうより、食べたくないっていう方が正しいかな…。
そういえば…昨日もほとんど食べなかったっけ。
先輩には口が裂けても言えないけど…最近体が重く感じるし、練習しててもすぐへばっちゃうんだよね…。
…あー、だめだめ!
もう明後日には本番なんだから、しっかりしないと…!!

「…フィルちゃん、疲れが溜まってるんじゃねえか?」

…ひゃっ!?
サ…サササッチ先輩何か近いです、顔近いですって!

「いやっ、べ、べつに!」
「そうか?入部してからずっと練習がんばってたし、フィルちゃん気負いすぎるところがあるからなあ…。」
「ほ、ほんとにだいじょ」
「本当に?我慢してねえ?…でも、やっぱうぶっ!?」
「サッチ、フィルが近すぎてうぜえって言ってるよい。」

た、助かった…心臓が爆発するかと思ったよ。
マルコ先輩ってすばらしい蹴り技をお持ちになってるよね。

「マルコぉ…本番近いんだから手加減くらいしろよ!」
「サッチ、フィルに手を出すとかやめろよな!」
「そうだよ。サッチと違ってフィルは汚れてないんだからさ。」
「ひど!?そ、そんなつもりじゃねえって!」
「…サッチ、フィルをそんな目で見るのはやめてほしい。」
「ジョズ!?お前まで…っ!!」
「くくっ、ジョズにまでそう言われちゃあお仕舞いだな。」

特別練習会をやってよかったことは、先輩たちと合わせの練習がしっかりできるだけじゃなくて。
長い時間一緒にいるから先輩たちとの距離が少し縮まった気がするし、練習時には見れない普段の先輩たちの姿を見ることができたんだ。
本番も明後日にまで近づいてるってこともあって雰囲気も上がってきてるし、私にとってこの練習会は本当に大事な時間になったと思うな。

「…そうだ、フィル。これを渡しておく。」

ジョズ先輩、…これ何です?服?
…白色のシャツっぽいけど、制服とは違うし…。

「これって…何の服ですか?」
「本番用の衣装だ。サイズは問題ないだろう。」
「…あ、ありがとうございます!」

何かこういうのって嬉しいな…!
…でも本番って、制服でするんじゃないんだ。
というか…衣装があるとか初耳ですよイゾウ先輩本番明後日ですよこっち見てくださいよ。

「フィル、やったな!おれたちとお揃いだぜ!」
「背中にプリントされてるのは、このバンドのシンボルマークなんだよ。」

せな、か…本当だ。
えーっと、黒色で…これってド、ドクロ?
それにひげ?っぽいのが描いてある…これがこのバンドのマークなんだ!
こういうのって格好いいし憧れるよね…!
私が着たら変かもしれないけど…先輩たちが着たら絶対似合うと思うなあ。

「フィル、外行って着替えてきたらどうだい。」
「へ?」
「そうだぜフィルちゃん。着た方がきっと気合い入るぜ?」

き、着たいですけど、何か私だけ着るの恥ずかしいよね。
それにもうすぐ休憩終わっちゃう…

「フィル、着てこい。」

はい、今すぐ着させていただきます。
イゾウ先輩の命令は私にとって絶対なんです。
…でも、何かどきどきするなあ…。

ーー


「…おっ!似合ってるじゃん!」
「フィルは体小さいからちょっと余っちゃってるけど…うん、格好いいよ!」
「 いい感じに決まってるじゃねえかい。」
「フィルちゃん、どお?本番間近って感じしねえ?」
「…これで多少はそれっぽく見えるな。」
「イゾウ。…フィル、よく似合っているぞ。」

や、やっぱり恥ずかしいけど、…サッチ先輩の言う通り気が引き締まるし、いよいよって感じがしてきた…っ!
…それに。

「…、休憩は終わりだ。用意しな。」
「えっ!き、着替えるんでちょっと待」
「そのままで問題ねえだろ。…最後の追い込みだ。お前ら、気合い入れ直せよ?」

先輩たちとお揃いだから、私もメンバーのひとりなんだって思えて嬉しいんだ。


- ナノ -