「フィルは…屋上へ来たのは初めてなのか?」
「は、はい。…でも、屋上は立ち入り禁止って先生に言われてた気が…。」
「フィル、細かいことは気にすんなって!こんないい天気だったら、外で食べた方がうまいだろ?」
「そ、そうですけど…。」

屋上のことも気にはなりますけど…そんなことよりエース先輩、ちょっと食べ過ぎじゃないですか?
…そういえば、今までの放課後練習の時も何かしら食べてた気がするなあ。
この細身な体のどこに入るっていうんだ…。

「フィル、そんな気にすんじゃねえよい。」
「そうだぜフィルちゃん。…それより、サッチ先輩特製のマドレーヌ食べねえ?」

うわっ!これ…先輩の手づくり!?
すごくおいしそうだなあ、…先輩って私より家庭的だよね。

「ほ、本当にいいんですか?」
「もちろん。」
「…サッチ、餌付けか?」
「ひどっ!1週間がんばったフィルちゃんにご褒美だよ、ご褒美!」
「フィルだけずるい!サッチ、ぼくたちの分はー?」
「あるに決まってんだろ?ほら。」

イゾウ先輩…放課後のときよりも雰囲気がやわらかい気がする。
私の練習の時はものすごく厳しい表情だし、(私が下手なせいで)基本不機嫌そうだもん。
やっぱり練習時間じゃないし、お昼休みで他の先輩たちも一緒だからかなあ…わっ、サッチ先輩のマドレーヌおいしい!

「…フィル、」

…あ、イゾウ先輩の顔ちょっと厳しくなった。

「、はいっ。」
「今日の放課後は練習できねえ、土日はしっかり復習しときな。サボったりなんかした日にゃあ…どうなるかわかってるな?」

はい、心得ております。
そんなことしたら、私の未来は確実になくなりますね。

「あーあ、こんな時期に進路説明会とかやめてほしいよな。」
「本当だよね。そのせいで部活が休みとか…ごめんね、フィル。」
「い、いえ!仕方ないですし…。」

今日、何でお昼休みに屋上で先輩たちと集まっているかというと、3年生は放課後に進路説明会があるらしくって部活が出来ないから、その代わりとしてミーティングのようなものをするためなんだ。
…何回も言っとくけど、軽音楽部は金曜日は練習日じゃないですからね。
でも、本番まであと1週間と…4日でしよ?
それに、土日を抜いたらちょうど1週間しかない。
本音を言うとやっぱり先輩たちに練習をみてほしいんだけど…こればっかりは…

「もう日がねえ。気合い入れろ。」
「、はいっ。」
「…イゾウ、そろそろ昼休みが終わるぞ。」
「…仕方ねえ、解散だ。戻っていいぞ。」

…イゾウ先輩、焦ってるのかな。
結局昨日も褒めてもらえなかったし、まだ1回も先輩たちと合わせさせてもらってないから…やっぱりまだまだってことだよね。
…私、あと1週間で本当に間に合うの!?
本当に練習がんばらなきゃ…っ!

「…フィルちゃん、」

、この声はサッチ先輩だ。
みんな帰ってくのに先輩は戻ら…、あ!
そういえば、マドレーヌのお礼言ってないや!

「サッチ先輩、マドレーヌおいしかったです。ありがとうございました!」
「ああ、ありがと。…あのさ、」

ちょいちょい、と小さく手招きされたので近寄ってみれば、先輩が小声で。

「…日曜、また一緒に勉強会しねえ?」

とびきり嬉しい内緒話に、私は大きくうなずいて返した。

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