「傷害事件、ですか…」

それはここに引っ越してきて4日目のこと。
この地域一帯を巡回しているという人が私の部屋を訪ねてきて、その人の話を聞いてみるとこの近辺で傷害事件が起きていたらしい。
渡された紙には事件の概要や犯人の特徴などが書かれている。

「一ヶ月ほど前の話なんだが…まだ犯人が捕まってなくてなァ、外出の際は注意してくれ。」
「わかりました…わざわざありがとうございます。」

一見怖そうに見えるしサングラスやこの奇抜な格好で警察の人だなんて思えないけど…犯人に悟られないよう私服で見回りしてる人もいるし、この人もそうなんだろう。
それにこの紙だって郵便受けに入れるだけでも済んだはずなのに…わざわざ教えに来てくれるなんて親切な人なんだなあ。

「フッフッフ、アンタは特に気を付けた方がいいな。」
「え?どうしてですか?」
「おれが警察の者だと言っただけで簡単にドアを開けただろう。言ったこと全てを信じるのもいいが…少しは疑うことも必要じゃあないか?」
「あ…」

言われてみれば不用心だったかもしれない。
この人が警察官だという証拠を見せてもらったわけじゃないのに、ドアを開けてしまった。
それにドアを開けるにしても、チェーンをかけて一度様子をうかがうとか…さっき物騒な話をされたばかりだし、もっと気を付けないと…。

「す、すみません、次から気を付けま…」
「この際だ、悪い人間が押し入ってきたときの練習でもしようじゃねえか。」
「へ?あ、あの、」

その男性は大きな体を屈めて玄関を潜ると、私の制止も無視して部屋に上がろうとしてくる。
ま、待って、このピンクのモフモフが邪魔で…!

「ドフラミンゴ!」

ばん!と勢いのいいドアの開く音が隣から聞こえたと思うと、男性の体は何かに引っ張られるようにして外へと出ていく。
男性をつかんでいたのはマルコさんで、知っている人が来てくれたことに安心感で一杯になった。

「マルコさん…!」
「何だ、いたのか。」
「あのなあ、入居者をからかうのもいい加減にしろよい。挨拶くらい普通に出来ねえのか。」
「フフッ、」

…あいさつ?そういえばマルコさんさっきこの人の名前っぽいことを叫んでたような…?
それにふたりとも顔見知りみたいだけど…。

「あの…挨拶って…?この人警察の人なんじゃ…」
「こんな警官いてたまるかよい。フィル、こいつはこのマンションの管理人だ。」
「ドフラミンゴだ。よろしくな。」

か…管理人!?この人が!??
で、でも確かに私服警官と言えどもこんなに目立つピンクのモフモフなんて選んだりしないだろうし…じゃあ私はこの人に騙されてたのか…。

「管理人っつっても名前だけで、実際の仕事は違うやつがやってるんだよい。けど新しい入居者が来たら今回みたいに顔見て帰る迷惑なやつでな…。」
「フフッ、ひでェ言われようだ。」
「その通りだろい。」

マルコさんの話を聞くに、マルコさんはここに住んで短くはないようだ。
それに、さっきの私のような場面に何度か遭遇したことがあるのかもしれない。
もしかして、マルコさんもからかわれたりしたのかな…?

「騙したみたいで悪かったなァ。だが…傷害事件のことは嘘じゃねェから気を付けてくれ。」
「は、はい、わかりました。」
「もし何かあったらコイツの名を叫べばいい。さっきみたいに助けてくれるだろうよ。」
「勝手なこと言うなよい。用が済んだならさっさと帰れ。」

追い払うような言葉にもドフラミンゴさんは笑ってみせると、私を一別してから帰っていく。
マルコさんは少しうんざりした様子だ。

「あの、さっきはありがとうございました。」
「…まあ隣に住んでるんだしな、何かあったら言えよい。」

最初のときも思ったけど、マルコさんはやっぱり親切だなあと思う。
私がもう一度お礼を言うと、気恥ずかしかったのかマルコさんは視線をそらして部屋へ戻っていくのだった。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -