新しい土地、新しい家。
人手が足りない店舗に異動することになり、それに伴って引っ越しをすることになった。
知り合いに紹介してもらったお勧めのマンションの一室を借りて、今日から本格的にこの地での生活がスタートするんだけど…

「お、重…」

引っ越しの際に発生した大量のダンボール。
快適な暮らしを始めるためには、これを片付ける必要があるのだ。
紐でまとめているとはいえ、その大きさと重さに気を抜かなくても地面を擦ってしまう。
ま、まずいぞ、これ横着せずに二回に分けて運んだ方がよかったかも…。

「大丈夫かよい。」

必死にエレベーターを目指す私に、後ろから声がかかった。
そこに立っていたのは、いかにも出勤前ですと言うようなスーツに身を包んだ金髪の男性。
年齢は40くらいに見えるけど…でもすらりと引き締まっていそうな体躯と整った顔立ちに、格好いいおじさんってこういう人のことを言うんだろうなと思う。

「え、ええと、」
「下まで行くんだろい。」

男性は戸惑う私に構わず段ボールを片方持ってくれて。
そのままエレベーター前まで行きボタンを押して
くれたので、私も慌てて追いかけた。

「す、すみません、ありがとうございます、」
「重そうだったからな。お前さん…502号室の?」
「そうです、昨日引っ越し作業が終わって…。フィルと言います。501号室の方ですか?それとも…」
「ああ、おれは…」

そこでエレベーターが到着したらしく、一旦会話を中断して乗り込む。
まだ比較的早い時間だからか中には誰も乗っておらず、スペースは十分だ。

「501号室に住んでるマルコだ。ときどき騒がしくしちまうかもしれねえから、その時は遠慮なく言ってくれよい。」
「い、いえ、私の方こそ。今晩にでも挨拶にうかがおうと思ってて…遅くなってすみません。」

本当は引っ越しが終わった昨日のうちに挨拶を済ませようと思っていて。
けど慣れないことに疲れたからか、少し休憩するはずがそのまま夜中まで眠ってしまい、断念せざるを得なくなったのだ。

「ちょうど良かったじゃねえか。これからよろしく頼」
「あ、いや、もう物を用意してて、迷惑じゃなければ受け取ってほしいんですが…」

何なら今から戻って取ってきた方がいいだろうか、でもマルコさんはこれから仕事だろうから荷物を増やさない方がいいだろうし…。
恥ずかしさからだんだんと小さくなる私を見て、マルコさんは可笑しそうに表情を崩した。

「わかったわかった。それなら明日の晩はどうだ?7時くらいにはいると思うよい。」
「ありがとうございます。じゃあ明日またうかがいますね。」

そこで一階に着きエレベーターが開いて。
先導してくれるマルコさんに続いてマンションから出ると、すぐ近くに設けてあるスペースに荷物を置く。
一息つくと、マルコさんが思い出したように口を開いた。

「ああそうだ。503号室なら挨拶しに行っても無駄だよい。そいつは年に数回しか帰ってこねえからな。」
「……わかりました。」

ね、年に数回って……その人いろいろ大丈夫なのかなあ。
よっぽど忙しい人なのか、ここ以外にも部屋を持っているのか…いずれにせよこの階に普段住んでいるのは私とマルコさんだけってことらしい。

「まあそのうち出会うだろい。それじゃあな。」
「はい。手伝ってくれてありがとうございました。」

私が頭を下げると、マルコさんは気にするなといったように片手で返事をしてくれる。
こんな親切な人が隣に住んでいるなら、ここでの生活も上手くいきそうだ。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -