「こちらエース、ふたりがゲームセンターへ入って五分が経過した。以上。」
「こちらハルタ、サッチがひたすらキモい。以上。」

おれの隣で嫌そうに顔を歪めるハルタに苦笑する。
キモいかどうかは別として…まあ確かに今日のサッチはいつもより顔緩いよな。

「お前らいつまでやってんだよい。」

後ろからは呆れたようなマルコの声。
ふたり揃って振り向くとわざとらしくため息をつかれた。
その隣ではイゾウが可笑しそうにしていて、マルコの肩をぽんと叩いている。

「だって尾行っていったらこれだろ?」
「そうだよ。その方が雰囲気出るし。」
「くくっ。中には入らねえのか?」

くい、と顎で行き先を示すイゾウにおれとハルタは顔を見合わせる。
そして首を縦にひとつ。

「もっちろん!今から…」
「やめとけ。人が多いっつってもゲーセンなんてすぐ見つかっちまうよい。」
「けどここからじゃ見えねえぞ?」
「もし見つかったら嬢ちゃんに嫌われるかもな。まあサッチからは…延々と説教コースか。」

ぴたりと止まって、そのあとハルタとまた顔を見合わせた。
会ってふたりの邪魔するつもりは元からねえけど…もしサッチに見つかってもあいつはおれたちを嫌いはしないだろう。
その代わり説教かあ…あ!飯つくらねえとか言われたらどうしよう!
でもあいつは優しいからな、ちゃんと謝れば何だかんだ言っても結局許してくれるんだ。
…フィルはどうだ?
今日はサッチとの初デートだ。
絶対に楽しみにしてる。
あいつちょっと恥ずかしがりやだし、 おれたちがずっと見てたって知ったらやっぱ嫌だって思うかな…。
あいつもおれたちのこと嫌いにはならねえと思うけど、でもせっかく楽しんでるのに万が一見つかって邪魔したくねえし…。

「…こちらエース、ここで待機する。以上。」
「はーあ。こちらハルタ、待機しまーす。以上。」

通信機に見立てた携帯をポケットに突っ込むと、イゾウがやれやれといったようにおれたちの頭に一度だけ手を置いた。
まあ出てくるまで待つっていうのも尾行っぽくていいし、これはこれでありだ。
つーかフィルがゲーセンか…あんまりイメージねえしきっとサッチが言い出したんだろうな。
ちょっとうるせえけど楽しいもんなと考えていると、後ろから特徴的な金属音。
…これ多分ジッポだな。
ほら当たっ…あれ?

「マルコ、お前煙草やめてなかったっけ。」
「…また吸い始めたんだよい。悪い、消すか?」
「いや?おれの知り合いにすげえ吸うやついるから慣れてるし大丈夫だぞ。」

おれがそう言うと、そうかと言いつつマルコが再び煙草を吸い始めた。
…うん、やっぱりマルコが吸うと似合うなあ。
何つーか…格好よくてさ、おれには出せねえ大人の男の雰囲気?みたいなのがあるよな。
けど何でまた吸い始めたんだ?もう完全にやめちまったと思ってた。
ぼーっと見ていると、手持ち無沙汰になったハルタがおれの横で大きなため息をついた。

「あーあ、会社のカメラ借りてくるんだった。」
「何に使うんだよ。」
「え?決まってるじゃん。フィルの写真撮ってサッチに売り付けるの。それか交渉用。」
「携帯使えばよくねえか?」
「遠すぎて無理だよ。会社のだったら今までくらいの距離でも余裕で…あ!出てきた!」

おれも慌てて見てみると、確かにサッチとフィルが出てきたところだった。
ポケットに突っ込んでいた通信機代わりの携帯を急いで取り出す。

「こ、こちらエース!ふたりが出てきた模様!フィルが何やらぬいぐるみのようなものを抱えている!以上!」
「こちらハル…あ!あれ『BEPO』だ!すっごい人気のやつ!」
「それおれも知ってるぞ!ていうかあれでっかくねえか!?」
「サッチああいうの上手いからなあ…!」

フィルが両手で抱える大きさだ、50センチは軽々越えるだろう。
そういやゲーセン行くとサッチによく特大のお菓子取ってもらったっけなあ。
マルコもこう見えて実は結構上手いんだよな、あんまりやってくれねえけど…ん?

「マルコ?どうかしたのか?」

おれの問いかけを無視してじっと何かを見ている。
視線を追うと、その先にはぬいぐるみを抱えて笑っているあいつがいて。

「…ああフィルか。あいつ本当嬉しそうな顔してるよな。」

サッチのことが本当に好きなんだろうな。
今日デートしてるの見てたけど…あいつずっと楽しそうにしてた。
サッチと一緒にいられるのが嬉しくて仕方がねえって感じだ。
そりゃあマルコも嬉しいよな、マルコはフィルのことすげえ大事にしてたし大事な友だちだって言ってたし。
もちろんおれもそうだけどな!

「…あ!信号渡っちゃう!早く追いかけないと!」
「!そうだな、走ればまだ」
「やめとけ。」

ふたり揃ってがくんと体が傾いた。
けど倒れもしない。

「ちょ!ちょっとマルコ!放してってば!」
「マルコ何すんだよ!」

シャツの後ろをつかまれ宙ぶらりんになっているハルタと、腕をつかまれその場を動けずにいるおれ。
な、何だ?マルコのやつすっげえ力強え…!

「見つかった。」
「え!?いつ!」
「う、嘘だろ?」
「さっきサッチと目があったんだよい。もう終わりにするぞ。」

全然気がつかなかった。
いつの間に?
サッチたちを見送っていたイゾウが、まだ驚いているおれたちに視線を戻す。

「お前らもしっかり見られてたぞ。嬢ちゃんは気づいてねえみたいだったけどな。」
「これ以上あいつの機嫌損ねたらフィルにばらされちまうかもな。そんで説教も二倍になるだろうよい。それでもいいんなら放すが。」

おれたちに見られてるってわかったらあいつ、きっと気になって楽しめなくなるだろうな。
サッチも優しいけど…でもあいつだってちゃんとふたりで楽しみたいって思うだろう。

「…はいはい、わかったからもう放してよ。追いかけないからさ。」

疲れたような声に、マルコがおれたちを放してくれた。
ふたりが歩いていった方向を見てみるも、もう姿はない。
どこ行くかは知らねえけど…ま、楽しんでこいよな。

「暇になっちまったし…おれらも遊ぶか!」
「そうだね。ぼくらもゲーセン行こうよ!」
「久しぶりに勝負でもするかい?」
「そりゃあいい。負けたら夜はそいつの奢りでどうだ?」

全員揃ってにやりと笑う。
今日はまだまだ楽しくなりそうだ。
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